M2Mの普及が加速しているのに伴い、その周辺技術も進化している。例えば、SIMカードもそうだ。
3GやLTEなどの携帯電話サービスを利用するには、固有のID番号が記録されたSIMカードをデバイスに挿す必要がある。これはもちろんM2Mの場合も同じであるが、M2M向けのSIMカードでは以下の2つの要件が特に重要になってくる。
(1)過酷な条件下でも長期間利用できる耐久性と省電力性
スマートフォンなど人が持ち歩くデバイスと比べて、過酷な条件にさらされることが多いM2M。一度設置すると10年近く使われることも一般的だ。そこで、温度、湿度、振動等に強いことが求められる。また、電源のない環境で長期間にわたり電池駆動しなければならないケースが多いため、省電力性もシビアに要求される。
(2)グローバル対応
SIMカードは特定の携帯電話事業者に紐付いているが、このことはM2M通信機能を搭載した製品などをグローバルに展開するうえでの障害となっている。例えば日本で生産した製品を海外に輸出する場合、現地のキャリアを利用するには、出荷後あらためてその国のSIMカードを挿す作業が必要になるからだ。出荷時に最初からSIMカードを組込み、現地でその国のSIMに設定できるのがM2Mにとっては望ましい。
こうした要件を満たしていくため、業界では様々な取り組みが行われているが、その方向性は大きく2つに分類できる。
アップルも研究開発に力を入れるソフトSIM
まず紹介するのは、(2)のグローバル化への対応策。ハードウェアとしてSIMカードを搭載するのではなく、ソフトウェア的に実装するアプローチの検討が進んでいる。特定の携帯電話事業者に紐付いたSIMカードを挿し込んで出荷しなくても、後から現地キャリアのSIMとしてソフトウェア的に設定できる。こうしたSIMは、ソフトSIMあるいはEmbedded SIM(eUICC)などと呼ばれ、携帯電話事業者の業界団体であるGSMAでその在り方について議論されている。
GSMAで議論されている「embedded SIM(eUICC)」の概念図。注目すべきはセキュリティ確保の観点から既存の(ハード)SIMベンダーがeUICCについても「モジュールを提供すべき」としている点 |
ソフトSIMについては、米アップルも強い関心をもって技術開発を進めており、すでに特許も取得している。以下に示したVirtual SIMがアップルが特許を取得した技術の概要だ。
アップルが特許を取得しているVirtual SIMの構成図、SIMカードに必要とされるセキュリティ機能(SE)をソフトウェアとして実装する。最初の応用例としてNFCを想定している |
Virtual SIMの発想は、物理的なSIMカードを実装せず、ソフトSIMによって特定の携帯電話事業者用の端末にしようというものである。つまり、将来のiPhoneはSIMカードが不要な“究極のSIMフリー端末”になるかもしれない。
ただし、携帯電話事業者からすれば、SIMアクティベーションのシステムをアップルなどの他者に委ねることは、到底歓迎できることではない。自社の加入者の囲い込みが困難になるからだ。このため当然、アップルの動きを警戒しており、GSMAのeUICC標準化はアップルへの対抗策と見ることもできる。