量子雑音で通信を守る「Y-00暗号」 テラクラスの高速大容量、1万km超の長距離伝送も可能

量子鍵配送(QKD)とはまったく異なるアプローチの量子暗号通信の研究開発が進んでいる。量子雑音を用いる「Y-00暗号」だ。玉川大学 量子情報科学研究所 所長の二見史生教授にその特徴を聞いた。

「熱雑音は0ケルビン(絶対零度)にすれば完全に除去できるが、量子雑音は現在の量子論が正しい限り、神にも取り除けない。その量子雑音の中に暗号文を埋もれさせ、データを守るのがY-00暗号だ」

玉川大学 量子情報科学研究所 所長の二見史生教授は、同大学が長年研究するY-00暗号をこう紹介する。

量子力学を応用した通信技術としては、量子鍵配送(QKD)が広く知られるが、このQKDとは「役割も量子技術の使い方も違う」というY-00暗号。QKDと同様、理論的な研究の段階は過ぎており、玉川大学では40Gb/sで1万118km、Nokia Bell Labsとの共同実証では160Gb/sで320km伝送に成功している。

玉川大学 量子情報科学研究所 所長の二見史生教授。東京大学大学院 工学系研究科 博士課程を修了後、富士通研究所で光伝送の研究開発に従事。2010年より玉川大学

玉川大学 量子情報科学研究所 所長の二見史生教授
東京大学大学院 工学系研究科 博士課程を修了後、富士通研究所で光伝送の研究開発に従事。2010年より玉川大学

Y-00暗号とQKDの違い

Y-00暗号は、米ノースウェスタン大学のYuen教授が2000年に提案したことからYuen2000プロトコル、略してY-00暗号と名付けられた。

一般的に暗号通信は、①認証、②鍵交換、③データ通信の3要素に分解できる。QKDは②鍵交換の技術であるのに対し、Y-00暗号は③データ通信(コンテンツそのもの)を守る技術と役割が異なる。かつて「Y-00暗号とQKDのどちらが安全か」という論争もあったというが、両者は補完関係というのが二見教授の考えだ。

Y-00暗号の仕組みはこうだ。暗号通信では、②鍵交換で得た共通鍵で平文を暗号化して③データ通信する。暗号化されているとはいえ、暗号文自体は「0」と「1」のビット。盗聴されれば、暗号文は取得されてしまう。

一方、Y-00暗号は、暗号文の盗聴自体を困難にする。真にランダムだという光の揺らぎ、すなわち量子雑音を利用し、「0」と「1」のビットを異なる光の位相や強さにランダムにマッピング。鍵なしでは、どれがデータ信号でどれがノイズか分からない。

量子コンピューターの実用化が近づくなか、「Harvest Now, DecryptLater」の脅威が高まっている。今、暗号化されたデータを収集・保存し、量子コンピューターで解読可能になったときに復号する攻撃だ。Y-00暗号を利用すれば、「暗号文をハードディスクに保存することすらできない」と二見教授は説明する。

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