SPECIAL TOPICクラウドを含む通信環境を正確に評価 バーチャル測定器で遅延もジッターも

アンリツがAWSのクラウド環境上で動作するソフトウェアベースのネットワーク測定ツールを開発、10月から販売を開始した。仮想環境を含んだネットワークの品質を正確に把握でき、医療や金融、モビリティなど、高い信頼性が求められる分野でのクラウド活用を支援する。AWS以外のクラウドやデータセンターでの利用も可能にする計画だ。

「クラウドを用いてサービスが提供されるようになり、仮想化環境を含めたトータルの通信品質を高精度で測定する必要が生じています。アンリツではハードウェアで提供しているネットワーク試験装置の機能の一部をクラウド用ソフトウェアとして提供することによりこのニーズに応え、ネットワーク試験ソリューションを通信事業者だけでなくデータセンター関連などのより広い分野のお客様にお使いいただけるようにしたいと考えています」

アンリツ サービスインフラストラクチャーソリューション事業部 ソリューションマーケティング部 課長の宮崎寿郎氏は、同社が10月に販売を開始した仮想ネットワーク測定ソリューション「Virtual Network Master for AWS MX109030PC」(以下、「バーチャルネットワークマスタ」と表記)の狙いを、こう説明する。

(左から)アンリツ 通信計測カンパニー サービスインフラストラクチャーソリューション事業部 ソリューションマーケティング部 課長 宮崎寿郎氏、同 主任 阿部高也氏

(左から)アンリツ 通信計測カンパニー サービスインフラストラクチャーソリューション事業部 ソリューションマーケティング部
課長 宮崎寿郎氏、同 主任 阿部高也氏

アンリツでは、モバイルネットワークやコアメトロネットワークの通信品質を手軽に評価できるハンドヘルドタイプの測定器「ネットワークマスタプロMT1000A」(100Gbps対応)、「同1040A」(400Gbps 対応)を展開、多くの通信事業者や通信機器ベンダーに利用されている。

MT1000A/1040Aは、試験用のトラフィックの生成と通信品質(スループット、遅延、ジッター、パケットロス率など)の測定の2つの機能を持っており、ネットワーク上に対向で接続し、高精度な通信品質の測定を可能にする。

とはいえ、こうしたハードウェアベースの測定器は仮想化環境への設置が難しく、クラウドを含むネットワークの通信品質を把握する上で課題となっていた。その解決策として開発されたのがバーチャルネットワークマスタだ。

開発を担当した阿部高也氏はこの製品を「MT1000A/1040Aの機能のうちクラウドを含むネットワークの測定に必要なものをAWS(Amazon Web Services)のアプリケーションとして実装できるようにしました」と説明する。

バーチャルネットワークマスタを導入することで仮想環境に測定ポイントを設定し、ネットワーク上のMT1000A/1040Aと組み合わせて利用することで仮想環境を含むネットワークの通信品質を正確に評価できる(図表1)。

図表1 仮想環境内の通信経路に測定ポイントを設定

図表1 仮想環境内の通信経路に測定ポイントを設定

異なるAWSのデータセンターで運用されているアプリケーション間の通信品質を、双方の拠点に導入されたバーチャルネットワークマスタで測定するといった使い方も可能だ。

バーチャルネットワークマスタの操作・設定はWeb上から容易に行える。

片方向遅延の測定が可能 独立コアで安定した動作を実現

クラウドを含むネットワークの通信品質の評価には、オープンソースのネットワーク測定ツールが広く用いられているが、バーチャルネットワークマスタを導入すると、格段に高度な測定が可能になる。

その1つが片方向遅延の測定だ。

クラウド環境に導入されたバーチャルネットワークマスタはNTPサーバーとの時刻同期を行うことで、生成するすべての測定フレームに正確な時刻情報を付加して送り出す。これをMT1000A/1040Aで解析することでダウンリンクの遅延時間を高い頻度で正確に測定できる(図表2)。

図表2 NTPを用いた時刻同期により片方向遅延の測定を実現

図表2 NTPを用いた時刻同期により片方向遅延の測定を実現

クラウド方向への通信(アップリンク)もGPSとの時刻同期機能を持ったMT1000A/1040Aにより、GPSの時刻情報をフレームに付加して送出し、クラウド上のバーチャルネットワークマスタで遅延時間を測定できる。

これに対して、オープンソースのPingで測定できるのは往復遅延に限られ、測定間隔の設定も限定的であるため、瞬間的な遅延時間の変化も把握しづらい。

また、バーチャルネットワークマスタは、アプリケーションに合わせた回線負荷やフレームサイズを設定し、リアルな条件下で試験を行うことができる。

このような試験はオープンソースのiPerfでも実施できるが、バーチャルネットワークマスタではさらに、送信・受信用として専用のコアを割り当てることで、他のアプリケーションの影響を受けず、より安定したトラフィック生成と測定を実現している点が大きな違いだ。

アンリツでは今後、バーチャルネットワークマスタをAWSだけでなくGoogle CloudやMicrosoft Azureなど他のクラウドサービスにも対応させる考え。さらに「データセンターの仮想サーバーに直接入れられるKVMタイプも2026年にリリースする」(阿部氏)計画だ。

仮想化対応で広がる測定ニーズ 医療・金融、モビリティにも

では、バーチャルネットワークマスタは、実際にどのような形で利用されることになるのか──。

アンリツがバーチャルネットワークマスタの新たな需要層として期待をかけるのが「AWSのサーバーを使ってアプリケーションを稼働する企業」(阿部氏)だ。特にネットワークに高い品質を求める医療、金融、製造業(工場)などでの利用が有望だと見る。

「クラウドサービスは基本的にベストエフォートですが、こうした用途でどこまで使えるのか指標を出して欲しいという強いニーズをいただいています」(阿部氏)という。

実際に異なるリージョンのクラウドサーバーを利用してシステムの二重化を図っている医療系企業のIT部門から「バーチャルネットワークマスタで通信品質を可視化することでバックアップ経路の信頼性評価や切替判断に活用できるのではないか」という声が寄せられているとのことだ。

図表3 クラウドサーバー間の通信品質評価が可能

図表3 クラウドサーバー間の通信品質評価が可能

モビリティ(自動車)分野での活躍も期待される。自動運転の実用化などに向け、5G回線やクラウドを含めたエンド・ツー・エンドの通信品質を把握しておくことでシステム設計の最適化、許容レベルの判断などに利用できるからだ。

これ以外にも、ローカル5Gで利用が始まっているクラウドコアが、想定しているクラウド環境に導入できるかを検証するなど、さまざまな利用法が考えられるとのこと。

仮想化対応によるネットワーク測定ニーズの拡大により、クラウドを活用する企業をはじめ、SIerや通信事業者のクラウドサービス部門、データセンター部門など幅広い層でバーチャルネットワークマスタが活用されていくことになりそうだ。

「バーチャルネットワークマスタ」に関するウェビナーを開催

アンリツでは、2025年12月10日(水)~12日(金)に「バーチャルネットワークマスタ」に関するウェビナーを開催予定だ。近年、データセンター利用のアプリケーションでは、ネットワークの通信遅延や信頼性の重要度が一段と高まっている。本ウェビナーは、クラウドや仮想環境を含むネットワークの通信品質を正確かつ高い再現性で評価できる「アンリツの最新測定ソリューション」を知る絶好の機会となるだろう。

◆開催日時◆
※ 見逃し配信を予定。当日参加できない場合、見逃し配信で視聴可能。

・2025年12月10日(水)10時00分~10時30分(30分間)
・2025年12月11日(木)10時00分~10時30分(30分間)
・2025年12月12日(金)13時00分~13時30分(30分間)

◆ウェビナーへの参加はこちらから(無料)◆
クラウド時代のネットワーク品質検証を革新
AWS環境で正確な測定を実現するVirtual Network Master

<お問い合わせ先>
アンリツ株式会社
通信計測営業本部 第1営業推進部
TEL:0120-133-099
E-mail:SJPost@zy.anritsu.co.jp

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