九州大学 情報学部門 サイバーセキュリティーセンター&量子計算システム研究センター 教授 櫻井幸一氏
IEEEは2025年9月24日、AIとサイバーセキュリティーの最新動向に関する記者説明会を開催。
九州大学 教授 櫻井幸一氏は、人間の問題とされてきたサイバー攻撃と対策が、AIが主体となる新たなフェーズに突入したことを説明した。
地政学的緊張がサイバー空間に波及
櫻井氏は2018年に宮家邦彦氏が提唱した「AIは地政学を変える」という予見が現実化していると述べ、AIと地政学の組み合わせはサイバーセキュリティーにとって嵐の予兆になると分析した。
従来の領土や軍事力などの物理的要素から、情報・技術・アルゴリズムといった非物理的要素を重視する時代へと移行しており、世界企業の60%以上が地政学的対立に起因するサイバー攻撃の影響を受けていることを説明した。特に、国家支援型のサイバースパイ活動や重要インフラへの攻撃が増加している実態を報告した。
AI活用でサイバー攻撃が「マフィア化」
現在のサイバー攻撃は「以前のハッカーのいたずらではなく、国家の意思を持ったデジタル戦争の一部となっている」と櫻井氏。AIはその戦争を加速させる武器にも防御の盾にもなる存在と位置づけると同時に、サイバー攻撃はデジタル裏社会のビジネスモデルと化しており、攻撃者はAIを活用してフィッシングメールの文面生成や脆弱性スキャンを自動化し、人手をかけずに大量の標的を一斉攻撃する体制を構築していると話した。
防御体制が手薄な中堅企業や地方自治体が標的となりやすく、組織化された攻撃者が「弱いところから崩す」戦略でサプライチェーン攻撃を展開しているのが現状だという。櫻井氏はこうした攻撃の組織化・効率化を「マフィア化」と表現し、企業の対策強化の必要性を訴えた。