携帯電話基地局や放送設備、電力網といった重要インフラは、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を利用した高精度な時刻同期に大きく依存している。しかしそもそも信号仕様がオープンなGNSSはジャミング(妨害電波)やスプーフィング(欺瞞信号)に対し脆弱性を抱え、さらにはLTE基地局の干渉にも弱い。
そのため、GNSSの受信機やアンテナのベンダー各社は対策に力を入れている。対策強化の背景の1つが地政学的要因だ。ウクライナとロシアの国境周辺やガザ地区などの世界の紛争地域では、GNSSジャミングが常態化している。スプーフィングの報告も相次ぐ。
「ジャマーテスト」に初参加し“本気のジャミング”に向き合う
こうした状況下、ノルウェー政府は2022年から「ジャマーテスト」を開催している。軍や政府系機関、研究機関、ベンダー各社がスカンジナビア半島北端近くのアン島(アンドーヤ)に集まり、実地でジャミング耐性を検証する公開試験だ。通常、この種の試験はその性質上、公開で行われることはほとんどない。オープンに参加が可能なほぼ唯一の機会がジャマーテストなのだという。古野電気は2024年9月の第3回に、単独の日本企業として初めて参加した。
ジャマーテストの実験の模様。屋外にアンテナを設置し(左)、参加者は競合する同業他社とも机を並べて作業した
同社の橋本邦彦氏は、参加のモチベーションをこう説明する。
「1つは、当社のGNSS受信機の評価がその場で得られることです。大手通信機器ベンダーをはじめとする当社製品のユーザーが集まり、しかも実地で運用する様子を間近に見られる機会は他にありません。脆弱性に対して1つひとつ対策し、未知の事象にも対応できるようにすることがGNSS受信機ベンダーとしての使命と考え、参加を決めました」
古野電気 システム機器事業部 開発部 開発2課 主任技師 橋本邦彦氏
北極圏に位置するアン島は軍事基地やロケット射場も擁する重要なエリア。海に面したテストサイトは急峻な山に囲まれ、山頂から妨害電波を発しても外部への影響がほとんどないという地の利がある。
5日間のテスト期間中、橋本氏らは日本との時差を生かし取得したデータを古野電気本社で解析し、結果を翌日のテストに反映するなど、検証と改良のサイクルを急ピッチで回したという。
「本気のジャミングを受けないと、本当の意味での脆弱性対策になりません。ロシアと国境を接するノルウェーでは、攻守両面において軍の本気度も違います。当社は検証項目の“100%クリア”を目指しテストに臨んでいます」と橋本氏は語る。