1.はじめに
オバマ政権期の2015年オープンインターネット命令も、トランプ政権期の2017年インターネットフリーダム復活命令(RIF命令)も、各々、その効力を巡る法廷闘争では大筋でFCCは勝利している。それは、法廷では、本件の中核となるブロードバンドインターネット接続サービス(BIAS)のサービス分類の権限がFCCにあるという考えで一貫していたからであった。
ところが、2015年オープンインターネット命令の内容をほぼ復活させる2024年オープンインターネット命令では、その司法の状況が変わってきた。関連する判例等を一覧にすると、図表1のようになる。その主なものについて、順番に見ていこう。
図表1 ネットワーク中立性に係るFCC権限についての司法判断
2.「ブランドX判決」
インターネット接続サービスは「電気通信サービス」として通信法タイトル2の規律の対象になるのか。これを決定する権限がFCCにあるという考え方が、2005年の最高裁判決(「ブランドX判決」)から司法の場では定着していた。その背景にあったのが、「シェブロン法理」(Chevron Deference)と言われる考え方だ。
シェブロン法理は、行政庁の裁量の可否を判定をする1つの考え方を提示するもので、1984年のシェブロン事件の最高裁判決で確立された。同法理の2ステップ分析と呼ばれるものがあり、その第1ステップでは、イシューについて、議会(法律)が正確な質問への答えを直接的に出しているかを見る。議会の意思が明確である場合にはそこで事態は解決し、議会の明確に表現された意思を行政庁は実行しなければならない。特定のイシューについて議会が沈黙しているか不明確である場合には、第2ステップに進む。行政庁の答えが法律の許容可能な構造に依拠している限りは、行政庁の解釈が尊重される。
2005年のブランドX判決は、ケーブルモデムサービスが「電気通信サービス」ではなく「情報サービス」だとしたFCCの決定を巡る事件の最高裁判決だ。「法律の規定が曖昧である場合、そして、行政庁の解釈の実施が合理的である場合には、シェブロン事件判決は、たとえ裁判所の信じるところの最善の法解釈から行政庁の解釈が相違していても、連邦裁判所が行政庁の法解釈を受け入れることを求めている」として、通信法の規定がインターネット接続サービスについて「電気通信サービス」か「情報サービス」かを「明確には分類していない」以上、「この技術的で複雑な分野における連邦電気通信政策は、(連邦通信)委員会に委ねられる」とした。