世界的に注目高まるディープテック
社会に大きなインパクトを与えうる革新的技術「ディープテック」が世界中で注目を集めている。内閣府の「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想関連調査」によると、世界のディープテック分野への投資額は、過去10年間で増加傾向にある。ベンチャーキャピタル(VC)投資額のうち、ディープテックへの投資額が占める割合も右肩上がりに推移している(図表1)。
図表1 世界のVC投資動向
ディープテックに世界共通の統一された定義は存在しないが、一般的には、地球温暖化をはじめとする人類が直面する重要課題の解決に資するR&D(研究開発)ベースの技術であると意味付けられている(図表2参照)。
図表2 主要なディープテック領域
ディープテックが脚光を浴びている要因は、数多くの社会課題が表面化してきたことに加え、テクノロジーが飛躍的な進歩を遂げていることも大きい。「ある程度のブレイクスルーをシーズ側で実現できないと、ビジネスに落とし込めない。それができるレベルにまで技術が進展してきた」。こう話すのは、米シリコンバレー発のVCであるPlugand Play Japanの新井成実氏だ。
イーロン・マスク氏率いるスペースXやテスラ、ChatGPTで有名なOpenAIなどもディープテック・スタートアップに該当するが、欧米を中心にディープテックの成功事例が増えていることも追い風になっているという。
Plug and Play Japan 新井成実氏
ディープテックで脱炭素
世界ではどんなディープテックが盛り上がっているのか。その1つが、脱炭素に寄与するゲノム編集やクリーンエネルギーだ。
プラスチック製品や合成洗剤などの化学製品は石油を原料とするが、製造過程でCO2を排出するうえ、投棄による海洋汚染といった問題も深刻だ。こうした問題を解決しうるのが、生物由来の素材を用いる「バイオものづくり」である。
植物などの生物資源を活用して作られた「バイオ燃料」や、遺伝子組み換え技術・細胞培養技術を用いて製造される「バイオ医薬品」などの研究開発が世界中で行われている。
次世代エネルギーの1つとして期待される水素の発生装置を製造するのは、ドイツのスタートアップEnapterだ。特別な設定なしに容易に設置できる「プラグアンドプレイ」式の水電解装置を商用化し、低コストでの大量生産を実現。燃料電池自動車(FCV)や産業利用に貢献しうる技術だ。
小さな原子核同士をぶつけてエネルギーを放出させる「核融合発電」についても、熱い視線が向けられている。ウランやプルトニウムなどの放射性物質を燃料とする原子力発電とは異なり、核融合発電は水から取得できる重水素やトリチウム(三重水素)が燃料となるため、放射能漏れのリスクは原子力発電の1/1000と言われている。
同分野では、国内のスタートアップも頭角を現し始めており、核融合炉の開発を進めるHelicalFusionは、「磁場閉じ込め方式」で核融合エネルギーの社会実装を目指している。磁場を使ってプラズマを同じ場所に留めることにより、核融合反応を長時間持続させることが可能になるという。