NTT法見直しをめぐる重要な論点の1つに、外資規制がある。
NTT法では、外国人等の議決権割合を、NTT持株の株式全体の1/3未満と定める。その根拠について、慶應義塾大学大学院 法務研究科の渡井理佳子教授は「NTT法3条の責務規定に求めることができるが、NTT法制定時には、電気通信事業が国民生活や社会経済活動に不可欠なインフラであること、国の神経系統として国の安全保障にも深く関わることが挙げられていた。これは経済活動に関して行われる国家・国民の安全を害する行為を未然に防止して、安全保障を確保することを意味している」と説明する。
慶應義塾大学大学院 法務研究科 渡井理佳子教授
また、電気通信事業者全体に対しては、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)において、外国人投資家による1%以上の株式取得について、事前届出により個別審査を行うなどの規制が課されている。
外資規制の在り方に対する意見は、NTTとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの競合3社で大きく異なる。
NTTは「経済安全保障の観点からは、NTT法で当社だけを守っても無意味であり、外為法やその他の法令等で、主要電気通信事業者を対象とすることを検討すべき」と主張する。
これは、NTT法成立時はNTTの固定電話が市場を独占していたが、現在はモバイルが中心であること、モバイルの顧客情報の管理システムやコアネットワークは、NTT法の対象外であるモバイル事業者が基本的に保有・管理しているため、そうした情報や設備を守らなければ、約2.1億ユーザーへの通信の安定的提供を確保できないことなどを理由とする。
これに対し競合3社は、NTTが公社から継承した土地や局舎、電柱といった「特別な資産」に、モバイルも含めた他の電気通信事業者も依存していることから、他の事業者の設備と同列に扱えるものではなく、NTT法による外資規制が有効との考えだ。
図表 日本の電気通信市場における外資規制
NTT法では政府の株式保有義務も課されているが、NTT法廃止で撤廃されることで、外資規制に影響を及ぼす可能性もある。
スペインでは2023年、旧国営通信事業者であるテレフォニカの株式9.9%を、サウジアラビアの通信事業者サウジ・テレコムが取得し大株主となったことで物議を醸した。
「もともとスペイン政府が支配的株主だったにもかかわらず、株式を手放していたことが遠因になったことは否めない。安全保障に関わるインフラを保有する事業者に対しては、外資規制だけでなく政府の株式保有義務を課すことも必要ではないか」とKDDI総合研究所 執行役員 シンクタンク部門長の村上陽亮氏は指摘する。
KDDI総合研究所 執行役員 シンクタンク部門長 村上陽亮氏
自民党の「NTT法の在り方に関するプロジェクトチーム(PT)」は、2025年を目途にNTT法を廃止する提言案を出したが、廃止後の外資によるNTT支配のリスクを考慮し、外為法による投資審査の補強を検討するように求めている。ここでいう補強とは、NTTに対する外資からの投資については、例外なくすべて審査の対象とするといった方法を指すと見られる。