ICT(Information and Communication Technology)というキーワードが一般化して久しいが、昨今そのICTを取り巻く現状は非常に厳しい状況にあると言える。ICTを採用する側、販売する側ともに短期的・近視眼的な効果のみを追求する傾向にあり、ICTの本質的な意味合いがないがしろにされていると感じているのは筆者だけではないであろう。
本連載ではICTを、本来期待されている企業の競争力強化への貢献という観点から捉えなおし、次回以降、成功事例の紹介を踏まえながら、経営上果たすべき本質的な役割という観点で議論を進めていくこととする。第1回目は、本テーマを選定することとなった経緯と今後解決すべき具体的な論点について説明することにしたい。
ICTのあり方を戦略的な観点から考え抜いているか?
筆者は経営コンサルタントという職業柄、ICTを導入する側及び提供する側双方の経営幹部と日常的にコミュニケーションを取らせて頂いているが、彼らとの意見交換の中で昨今のICT事情を象徴的に指し示す以下のようなコメントを頂戴した。
「企業が毎年投ずるべきIT予算・ICT予算の妥当額がわからない」(大手金融機関情報システム部長)
「IT予算の編成は、前年度から何%削減できるかという議論からスタートする」(大手サービス業経営企画部長)
「顧客はICT関連費用の削減にしか興味を示してくれない。新たな提案がしにくい状態が続いている」(大手SIer経営幹部)
同様のコメントはここ数年、耳にする機会が非常に多く、同様の立場であれば読者の大半の方々にも当てはまる現実だと思われる。
なぜICTを取り巻く業界全体がこのような状況に陥ってしまっているのだろうか。低成長・業績悪化の空気が蔓延している現在、各界の企業がありとあらゆる支出を抑制している状態であり、安くはない支出項目であるICT費用が削減対象として目のかたきにされやすいという実情は理解できる。しかしながら、そこに全ての理由を求めてしまうと、ICTの健全な発展と企業における永続的な有効活用は望めないはずだ。
本来、ICT費用を削減する、または増加させるというのは、戦略的な経営判断に基づく結果論のはず。果たして、日本国内においてどれだけの企業がICTのあり方と追求すべき効果・効用について戦略的な観点から考え抜いているのだろうか。
ICTの歴史的な発展に対して、これまで産業界は一定の理解を示し、積極的に新しいソリューションの導入を行ってきたが、現在直面している未曾有の厳しい経営環境は、企業が具備すべきICTマネジメント能力が根本的に欠如していることを証明したのではないかと筆者は考えている。故に、この点に対して警鐘を鳴らし、一定の指針を示すことが本稿の役割と考えた次第である。