サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合したSociety 5.0 が実現する社会では、IoTで全ての人とモノがつながり、今までにない新たな価値を生み出すことが期待されている。これを現実のものとするために、我々はどのように取り組めばよいのだろうか。
IoTの世界をより広く普及させるには、従来のマイコンよりもさらに小型、低消費電力、かつ容易にインターネットに接続できるコンピューターが必要である。また、誰でもIoTビジネスに参画できること、技術とビジネスの両面から容易にPoC(概念検証)が行えることが求められる。
モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)では、この小型、バッテリー駆動、そしてモジュール化されて容易に取り扱えるという3つの特長を備えたデバイスを「ナノコン」と定義し、2018年にナノコン応用推進WGを立ち上げ、その普及促進に取り組んでいる(「ナノコン」は、MCPCがライセンスしている商標)。
ナノコンの代表例ナノコンの代表例と言えるのが、トリリオンノード研究会(代表:東京大学名誉教授 桜井貴康氏)が現在開発するオープンソースの「Leafony」である。
Leafonyは、1円玉サイズでボタン電池で駆動可能と、小型・低消費電力の点で際立った特長を有している。
ハードウェアの製作も簡単だ。Leafonyは、「リーフ」と呼ばれる約2cm四方の電子基板を複数組み合わせることでハードウェアを構成する。はんだごては不要で、ブロック玩具のように組み立てることが可能だ。
Bluetooth通信機能のリーフ、LoRa通信機能のリーフ、温度・湿度・照度・加速度センサーを搭載したリーフなど、様々な機能のリーフが入手可能となっており、必要な機能のリーフを組み合わせることで、目的に合ったIoTデバイスを準備できる。
このため、ハードウェアに精通していなくても、IoTのアイデアを容易に試すことが可能だ。従来はアイデアが浮かんでも、それを実際に動作させるために必要なハードウェアに関する知識や費用、時間が足りなく、PoCの実施すらも難しいというケースが少なくなかっただろう。
しかし、Leafonyを用いれば、アイデアを簡単に形にすることができ、次のステップへ進むことができる。AVRマイコン、STM32マイコン、Bluetooth Low Energy、温湿度センサー、照度センサー、加速度センサーのリーフがセットになった「Leafony Basic Kit 2」は1万円台で入手可能だ。
学生らがコンテストに参加MCPCナノコン応用推進WGでは、Leafonyを通してIoTを身近に体験することで、Society 5.0を実現する幅広い人材育成につなげていくため、ハッカソンやコンテストを2019年から開催している。
2019年のハッカソンは、初日にアイデアソンとチームビルドなどを行い、1カ月後に完成したシステムを持ち寄って発表する形式とした。プログラミングや電子工作が得意な技術者だけでなく、美大/芸大生、文系の大学生、フリーランスのデザイナーなども参加し、技術を持つ人と社会課題や生活を豊かにするアイデアを持つ人のマッチングの場にもなった。
ハッカソンの様子
2020年と2021年は、コロナ禍を考慮して「ナノコン応用コンテスト」に変えて実施した。3カ月の検討期間を設定し、個人またはチームで完成させたシステムを応募する形式である。企業、大学、職業能力開発短期大学校、専門学校、個人が参加し、人々の安心・安全や快適な生活に役立つシステムなどの応募があった。
例えば、東海大学地盤研究室チームは、LeafonyのBasic Kitに標準搭載された加速度センサーを利用して0.2°程度の精度で土地の傾斜角を計測できるデバイスを開発し、定期的に計測した傾斜角を遠隔地から常時監視できるシステムを構築した。他のセンサーと組み合わせることで、災害予知、インフラ老朽化の監視にも応用できそうだ。
日本電子専門学校は、ペットの健康管理に着目し、Leafony Basic Kitに標準搭載された温度計、加速度センサーを利用して、ペットの体温と活動量データを取得できる首輪を開発。飼い主のスマホで、ペットの異変にいち早く気づけるシステムを構築した。獣医から「日々のデータはペットの治療にも役立つ」という声が寄せられた。
日本電子専門学校がLeafonyで作ったペットに装着する首輪型のIoTデバイス。
アプリと連携してペットの体温と活動量を取得できる