高速大容量の通信ネットワークを実現するうえで欠かせない光ファイバー。総務省によると日本での光ファイバーの世帯カバー率は、2021年度末時点で99.7%の見込みだ。
このように身近な存在である光ファイバーだが、通信ケーブルとしての用途だけでなく、センサーとしても活用できることはあまり知られていない。「光ファイバー自身が温度、伸縮、振動などを感知するセンサーの役割を果たすことができる」とNPO法人 光ファイバセンシング 振興協会の足立正二氏は紹介する。
例えばOKIの光ファイバーセンシングソリューションは、反射光を用いた仕組みでセンシングを行う(図表1)。
図表1 OKIが提供する反射光を使った光ファイバーセンサーの仕組み
光ファイバーの内部には無数のガラス粒子が存在しており、光源から光を照射すると温度やひずみの変化に応じて反射光の強度や周波数が変化する。その変化を測定器を用いて解析する。「光ファイバーが引っ張られたり縮んだりという変化から、例えばコンクリートがたわんだりひび割れたりした場所をピンポイントでセンシングできる」とOKI ソリューションシステム事業本部 IoTプラットフォーム事業部の山口徳郎氏は説明する。
測定できる対象は温度、振動、ひずみ、圧力など多様だ。どのような光の性質、ファイバー、測定器を組み合わせるかでセンシング対象を変えられる。例えばOKIの測定器ソリューション「WX-1033 A/B」は、光ファイバーから得た光信号を電気信号に変化して解析し、温度やひずみ分布を測定する機能を備える。また、「PC筐体としての機能も持ち、解析した情報をグラフ化したり、閾値を超えたらアラートを出せる。さらにクラウドと連携するためのIoTゲートウェイと組み合わせることができる」(山口氏)という。
(左から)NPO法人 光ファイバセンシング 振興協会 足立正二氏、
OKI ソリューションシステム事業本部 IoTプラットフォーム事業部 山口徳郎氏
点ではない線のセンシング光ファイバーセンシングの最大のメリットは“点”ではなく“線”でセンシングできることにある。一般的なセンサーは、温度にしろ、ひずみにしろ、センサーを設置した特定箇所のセンシングしかできない。
事前にセンシングすべき場所が分かっていれば、それで十分だ。しかし、工場のどこで火事が起こるかは分からない。橋梁のどこにひび割れが起こるかも事前には分からない。そこで“全身”をセンシングしようとなると、ポイントセンサーの場合は大量にセンサーを設置する必要がある。
しかし光ファイバーセンシングの場合、光ファイバーが通っている場所とその周辺をセンシングの対象範囲にできる。そのため広範囲をセンシングしたいケースほどメリットが大きくなる。
「大量のポイントセンサーでセンシングしようとするとコストもそうだが、1つひとつのセンサーを管理・メンテナンスする労力も膨大になる。例えば海の上に建てた橋など、頻繁に人が訪れることができないような場所では光ファイバーセンシングが有効だ」と山口氏は言う。
市販されている光ファイバーは様々な長さがあるが、光ファイバー同士を融着することで距離を延ばすことができる。「当社の場合、約5㎞の距離を測定することが可能で、1m間隔で各ポイントを測定できる。適用シーンの多い橋梁やトンネルなどは十分カバー可能だ」(山口氏)
さらに光ファイバーセンシングには、他のセンサーにない強みがある。耐久性だ。光ファイバーは基本的に石英ガラスという素材で構成されている。「石英の融点は約1000℃近く。ガラス部分には特殊な被覆が必要になるが、石油やガスの掘削といった高温になりやすい環境でもセンシングができる」と足立氏は話す。
また、「光ファイバーは電気を通さないため、センシング時に火花が生じない。防爆・防災という観点でも優れていることから、原子力発電所などの火災を避けたい場所で利用されている。そのほか耐水性や、腐らない、落雷にも強いといった耐久性にも優れている」(山口氏)という。