「ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2022」のKDDI総合研究所のブースでは、Beyond 5G/6G時代に向けた取り組みを紹介している。
テラヘルツ帯マルチビームアンテナは、KDDI総合研究所が国立大学法人名古屋工業大学とともに開発に成功したものだ。
Beyond 5G/6Gでは、5Gの100倍の超高速・大容量通信を実現するため、より広い周波数帯域を使えるテラヘルツ帯(300GHz帯)の活用が期待されている。しかし、電波の直進性が高く、伝搬損失が大きいといった性質から、利得の高いアンテナが必要となる。利得の高いアンテナはビームが鋭いので、ユーザー端末の位置が動く移動通信におけるテラヘルツ帯の実用化に向けて、ビーム方向を変更できるアンテナが求められていた。
今回開発したのは、高利得なマルチビームレンズアンテナと、小型な平面型マルチビームアンテナの2種類。いずれも60度の角度でビーム方向を変更することが可能だ。このうちマルチビームレンズアンテナは、レンズと1次放射器(ホーンアンテナ)で構成され、接続するホーンアンテナを切り替えることでビーム方向を変更する。レンズにテラヘルツ帯で損失の小さい素材を選定するとともに、レンズ形状とホーンアンテナの配置を最適化することで、ピーク利得が27dBi、60度の範囲で22dBi以上となる高利得を達成したという。
マルチビームレンズアンテナ(左)と平面型マルチビームアンテナ |
また、平面型マルチビームアンテナは、マイクロストリップコムラインアンテナとビーム形成回路で構成され、ビーム形成回路の接続ポートを切り替えることでビーム方向を変更する。アンテナとビーム形成回路を層状に重ねた独自構造により、25×17×2mmとスマートフォンに搭載可能な小型サイズを実現した。
Beyond 5G/6Gでは、ユーザー1人ひとりの通信性能要求に応えるため、端末の進化も必要となる。だが、現状使われているスマートフォンは筐体サイズの関係から搭載できるアンテナ数や最大送信電力に制約がある。そこでKDDI総合研究所と名古屋工大は、ユーザー端末が、ウェアラブルなど周辺の様々なデバイスとテラヘルツ帯で協調し、各デバイスに搭載されたアンテナを仮想的に束ねて1つの端末として動作する「仮想化端末」を提案している。