<特集>5G産業革命の足音は聞こえてきたか?(第4回)名医の技をロボットへ 5Gで治療・手術をデジタル化

診断や医療支援に留まっていた遠隔医療の壁を超える──。5Gの能力をテコに、遠隔医療の発展を一気に推し進める取り組みが各所で始まった。ロボットによる自動手術も夢ではないかもしれない。

「通信技術と医療」と聞けば、いわゆるオンライン診療に加え、患部画像や診療データを病院間でやり取りして画像診断する、熟練医が手術動画を見ながら遠隔地の執刀医を支援するといったケースを想像するだろう。あるいは、医師が手術ロボットをリモート操作する遠隔手術をイメージする人もいるかもしれない。

「画像・動画による診断や手術支援はすでに結構行われていて、ポピュラーになりつつある」と話すのは、神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センター(ICCRC)の副センター長を務める山口雷藏氏だ。だが、遠隔手術となると実用化には高い壁が立ちはだかっていた。「遠隔で実際に治療・手術するとなると、まったくレベルが違う。技術的にはもちろん、法整備や規制緩和の問題があり、これまでは不可能だった」


神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センター(ICCRC) 副センター長 山口雷藏氏

しかし今、この高い壁すらも技術的には乗り越え可能になりつつある。5Gの登場で医療のデジタル化は一気に加速し始めた。各地で行われている実証実験の取り組みを見ていこう。

救急車と病院の連携にも徳島県は2021年7月に、NTTドコモの5G遠隔医療支援システムによる遠隔診療を本格スタートさせた。3つの県立病院で、医療機器のデータや高精細映像を伝送。片道1~2時間かかっていた専門医・患者の移動を削減し、各地域で都市部と同等の医療が受けられるようになる。熟練医の医療行為を映像で伝送し、若手医師への指導や授業に活用することも想定しているという。

前橋市では、救急医療分野での5G活用を目指した実証実験も行われた。救急車・ドクターカーから、患者情報(本人確認や既往歴、服薬など)、4K接写カメラによる患部映像、エコー(超音波診断装置)映像等を医療機関へ伝送しながら患者を搬送。従来は音声で想像するしかなかった現場の状況を、医師が的確に把握できるようにするのが狙いだ。

ドコモ 5G IoTビジネス部・ビジネスデザインの井上篤弘担当部長は、「5Gの低遅延通信も活かしたもの。患者の状況を指令台や病院とシェアすることで、受け入れ体制の整備の迅速化やオペレーションの最適化につなげられる」とその効果について語る。徳島県の例のように、「医療行為の映像を使った学生や若手医師の育成目的での引き合いも増えてきている」という。

NTTドコモ 5G IoTビジネス部・ビジネスデザイン 担当部長 井上篤弘氏
NTTドコモ 5G IoTビジネス部・ビジネスデザイン 担当部長 井上篤弘氏


救急車での活用を除けば、光ファイバー網でも十分に要を足すとも考えられるが、場所や設備に依存せずに高精細映像を活用できる5Gへのニーズはやはり高い。「病院や手術室などに限定されることなく、どこでも見られる、サポートできるようになる柔軟性が5Gにはある。その観点で、将来を見据えて5Gに投資しようと判断されている」(井上氏)

長崎では、ローカル5Gを使った医療改革も始まっている。今年1月から3月にかけて長崎県、長崎大学病院、NTT西日本らが実施した、遠隔診療支援に関する実証事業だ。

公共交通による移動が困難な離島・半島が多い長崎県では、熟練医による専門的な医療を受けにくい状況がある。実証実験では、離島の病院で診療の様子を撮影し、ローカル5Gと光回線を使ってリアルタイムに本土の大学病院に伝送し、医療支援を行うシステムを検証した。

また、高齢者施設とかかりつけ医との間でも同様の仕組みを用いて、訪問診療への適用可能性を確認。3月の発表では、実用に耐えうる性能を確認できたため、他の離島医療圏などへの横展開を見据えた普及モデルの検討を進めるとしている。

月刊テレコミュニケーション2021年11月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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