国内メーカーの強みを活かしきめ細かなサポートを提供DNPは1980年代からICカードの開発・製品展開を手掛けており、国内では発行枚数ベースでトップシェアを占めている。その技術・ノウハウを生かし2001年に国内で初となる3G向けSIMの提供を開始。現状では、DNPのSIM製品は国内市場を中心に展開されているが、「不良率の低さや耐久性など品質面で通信事業者から高い評価を頂いている」(神力氏)という。
ローカル5Gでは、①ネットワークを利用する企業や自治体、②設備の構築を担うSIer/NIer、③端末やネットワーク機器のベンダーなど様々なプレイヤーがSIMの顧客となる。DNPでは全国の営業拠点を生かして、こうした多様な顧客の要望に応じたきめ細かな対応を行う。
DNP SIM for ローカル5Gで提供されるSIMの仕様は、基本的には携帯電話事業者に提供している製品と同じだ。カードタイプではnano SIM、micro SIM、標準SIMいずれにも対応可能なマルチカットSIMで提供する。
SIMは、顧客から提供された発行データ(INPUTファイル)に基づいて、SIMのICチップにID情報や通信に用いる暗号鍵、認証手順などを書き込む形で発行される。その後、顧客側で認証サーバーに登録するID情報や鍵情報などが記録された「OUTPUTファイル」とともに納品する(図表2)。この発行作業は、クレジットカードや銀行のキャッシュカードの製造・発行を行っている高セキュリティの国内工場で行われ、製造から配送まで全プロセスで強固なセキュリティ対策が講じられている。
図表2 DNP SIM for ローカル5Gの提供イメージ
DNPは2021年1月に、SIMに書き込むID情報の1つであるICCID(識別番号)の発行に必要なIIN(SIM発行者識別番号)を取得し、IINを持たない企業に対して、SIMの発行とともにICCIDを貸与するサービスの提供も開始している。
またDNPは、自営BWAやsXGP などのプライベートLTEに対応したSIMの提供も行っている。5Gの通信制御を4G/LTEで行うNSA(ノンスタンドアロン)構成のローカル5G への対応も可能である。
SIMの機能を活用して公衆5Gとのシームレス運用を「DNP SIM for ローカル5G」で特筆されるのが、これまでSIMを扱ったことがない顧客にコンサルティングサービスを提供し、ローカル5Gを円滑に導入できるようにしていること。SIMの機能を活用して顧客の運用ニーズに応える取り組みにも力を入れている。
「コンサルティングはSIMにデータをどう書き込むかといった基本的なことから始まる。パラメータをうまく使えば、スマートフォンのアンテナ表示横にネットワーク名として企業や自治体の名前を表示させ、ブランディングに活用するといったこともできる」(第2部 第1グループ リーダー 高井大輔氏)という。
SIMの機能を活用して、ローカル5Gと公衆5G/4Gを切り替えて、シームレスに運用することも可能になる。
「ネットワークの切り替えは、網側だけでなく、SIMも重要な役割を担うことができる。お客様のニーズに最もフィットしたものを提案していく」(第2部 第2グループ エキスパート 向田満里子氏)。
(左から)大日本印刷 情報イノベーション事業部 ICTセンター セキュア・エレメンツ・デザイン本部 第2部 部長 神力哲夫氏、第2部 第1グループ リーダー・シニアエキスパート 高井大輔氏、第2部 第2グループ エキスパート 向田満里子氏
セキュリティに強み 組み込みソフト開発にも対応できるDNPがローカル5Gをサポートできる分野はSIMだけではない。
SIMと同様の耐タンパー性を組み込みチップ上で実現する「eSE(DNP組み込み用セキュアエレメント)や、セキュアエレメントとクラウドを組み合わせて、強固な暗号通信を可能にする「IoSTプラットフォーム」は決済端末などで利用されているが、ローカル5Gでも様々なユースケースで活用されるものと見られる。
また、ローカル5G設備の構築においても、DNPが製品化している5G向けの透明アンテナフィルムをはじめ、 微細加工技術や材料技術を活用した5G対応の部材が貢献するだろう。
DNPでは、DNP SIM for ローカル5G関連製品、サービスを含めて2023 年度までに5億円の売上を目指している。同社では、ローカル5G向けデバイス・組み込み機器側のソフトウェア開発などにも取り組むことで、SIMを付加価値の高いビジネスとして展開する考えだ。ICカードで培ったセキュリティ技術はDNPのローカル5G向けビジネスの大きな強みになるはずだ。同社では、機器に組み込んで利用するeSIMへの対応も可能であり、機器のサプライチェーンに合わせた発行方法も提案できる。ローカル5Gの新たなニーズに対応するためにFPGAを応用した処理高速化などの基礎研究にも取り組んでいくという。
<お問い合わせ先>
大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部ICTセンター
セキュア・エレメンツ・デザイン本部
TEL:050-3753-1749
https://www.dnp.co.jp/biz/solution/products/detail/10157626_1567.html