IPレイヤーと光伝送レイヤーを統合し、投資・運用コストの低減などを目指す「IP over DWDM」は、2000年代にシスコシステムズが提唱した。同社はキャリア向けルーターに光伝送技術を搭載し、ネットワークをシンプル化するソリューションを提供。同様の取り組みは、光伝送システムで高いシェアを持つシエナなど他ベンダーにも広がり、各社が“IP/光融合”製品を投入してきた。
だが、「IP over DWDMは流行らなかった」というのが現時点での結論だ。通信事業者をはじめサービスプロバイダー(SP)のネットワークはほぼすべて、今もIPと伝送レイヤーを個別に構築・運用されている。
この構造が今度こそ変わるかもしれない。「キャリア/SPからの注目度が上がってきている」と話すのは、シスコ SPネットワーキング アンド クラウドアーキテクチャ事業部 テクニカル ソリューション アーキテクトの児玉賢彦氏だ。「迅速な帯域増強、運用自動化などネットワークへの要求が高度化したことで、シンプル化が求められている」からだ。
日本シエナコミュニケーションズ システムエンジニアリング本部長の瀬戸康一郎氏も「特にアクセス網で、ルーターに伝送機能を統合して使いたいという声は大きい」と語る。同社もこれに応え、新たな統合ソリューションを準備中だ。
ルーターと光伝送装置のトップベンダーがどのようなアプローチでこのニーズに応えようとしているのか。IP/光融合の道筋を見ていこう。
(左から)シスコシステムズ SPネットワーキング アンド クラウドアーキテクチャ事業部
テクニカル ソリューション アーキテクト 児玉賢彦氏、
日本シエナコミュニケーションズ システムエンジニアリング本部 本部長 瀬戸康一郎氏
トラポンをルーターに統合IP/光融合の引き金となったのは、光伝送のディスアグリゲーションだ。
光伝送装置はトランスポンダー、波長分割多重(WDM)、ROADM、光アンプなど、いわゆる「光ラインシステム」によって構成される。このうちトランスポンダーをルーターに統合する動きが進んできた(図表1)。「トランスポンダーは少し前に100Gが普及したものが、もう400G、800Gへ進化している。伝送装置の中でも機能によってライフサイクルが異なる」(児玉氏)のがその理由だ。分離すれば、トランスポンダーの進化をいち早く取り込める。
図表1 IPレイヤーと伝送レイヤーのネットワーク導入モデル
トランスポンダーは電気信号と光信号の相互変換や中継送信を行う。この機能を集約した光トランシーバー「プラガブルモジュール」をルーターに挿し、直接WDM波長を送出。これにより「ルーターとトランスポンダー間の接続・設定作業が不要になり、設置スペースも節約できる」(瀬戸氏)。
近距離の拠点間をポイント・ツー・ポイントでつなぐ場合は、100Gbpsで数十km以上の伝送が可能なCFP2-DCO規格のプラガブルモジュールを使って、シンプルにIP/光融合システムが構成できる。中距離、または複雑なネットワークを構成したい場合は、光パスを柔軟に制御できるROADMや光アンプが必要になるが、それでもトランスポンダーを融合したメリットは享受できる(図表2)。
図表2 RONアーキテクチャによるネットワーク構成イメージ[画像をクリックで拡大]
シスコはこれを「RON(Routed Optical Network)アーキテクチャ」と名付け、キャリア/SP向けルーターの「NCSシリーズ」等で上記のような構成を可能にしている。さらに、今後普及が見込まれる新規格「400GQSFP-DD ZR/ZR+」(以下、400ZR/ZR+)、「CFP2-DCO 400G」モジュールを4月以降、順次リリースする計画だ。
シエナもプラガブルモジュールと、これに対応するルーター製品「Ciena5166/5171/8180」等を提供している。100Gから200G、400Gへのアップデートに合わせてIP/光融合を推進する環境が整いつつある。