今、アメリカの通信キャリアは、ベライゾン、AT&T、Tモバイルの3社で契約数シェアの9割以上を占める“三つ巴”の状態にある。
そんな中、「5G展開では、周波数が低いローバンドで競争が進んでいる」と情報通信総合研究所(ICR) 上席主任研究員の岸田重行氏は説明する。
情報通信総合研究所 上席主任研究員の岸田重行氏
当初ベライゾンは、ハイバンド(ミリ波帯)で5Gを展開していた。しかし速度は圧倒的に早かったものの、ミリ波の特性からエリア拡大が難しかった。そのうちTモバイルが、エリア拡大が比較的容易なローバンドの5Gを全国的に展開し、5Gの繋がりやすさではトップとなる。やむを得ずベライゾンもローバンド5Gを投入し、5Gの電波を掴む時間は伸びたものの、速度が出ないという状況になっている。
Availability(ここでは5Gを掴んでいる時間の割合)は向上したものの、
速度はいずれも50~60Mbps程度となっている
速度は4G/LTE以下になっているため、「現状アメリカの5Gは、マーケティング的な競争でしかなく、実際の利用シーンは何も変わっていない」と岸田氏は指摘する。
もちろんキャリアはいつまでもこの状態を維持するわけではない。今進んでいるのが、ハイバンドのエリアの狭さ、ローバンドのスピードの遅さの中間で、通信速度と繋がりやすさが丁度いいミッドバンドの獲得だ。TモバイルはSprintとの合併によって2.5GHz帯を多く所有しているが、ベライゾンとAT&Tが現在所有するミッドバンドは、すでにLTEのユーザーが使用しているため、新たな帯域を獲得する必要がある。
今年2月に行われたCバンド(6GHz帯)の周波数オークションでは、ベライゾンは454億ドル、AT&Tは234億ドルを投じている。
このようにスマホ向け5Gの地盤強化を進めてはいるものの、では各社はどの領域で、どのように事業を成長させようとしているのか。「実は3社の成長戦略は随分違う」と岸田氏は言う。
まずは固定無線ブロードバンド市場への参入だ。2018年からハイバンドの固定無線ブロードバンドサービス「5G Home」をエリア限定で提供しており、展開都市の拡大を検討している。将来的には、中堅中小企業もターゲットにするという。
「アメリカでは、固定ブロードバンドで一番強いのがCATV事業者だ。固定通信事業者が各地域で圧倒的なシェアを持っている日本とは随分状況が違う」(岸田氏)。このCATV事業者から市場を奪いたい考えだ。
MEC(モバイルエッジコンピューティング)の取り組みも進んでおり、Amazon Web Service(AWS)と提携し、「5G Edge」として5Gとワンセットでサービスを提供している。収益化は2022年を見込むと同社CEOは語っている。
AWSと連携し、MECサービス「5G Edge」を提供する
(※資料の一部を加工しています)
さらに、ベライゾンはMECに画像処理の機能を搭載する予定で、NVIDIAのGPUを本格導入し、開発を進めている。具体的なユースケースとして狙うのはゲームだ。今人気を集めているPCゲームでは、高精細な画像描写などのためにゲーミングPCにグラフィックカードを入れる必要がある。しかし、ベライゾンのMECを使えば、グラフィックカードの入ったハイスペックなPCではなく、スマホからでも同様のゲームができるというものだ。
このほか、法人向けソリューションの開拓にも積極的だが、今後成長が期待できるとして、MVNOの買収やサブブランドの投入などにも注力している。