<特集>2030年のネットワーク衛星通信はBtoBから 地上から宇宙まで繋がる通信網、35億人の市場開拓

衛星通信が35億人にインターネットを与え、また5G/Beyond 5Gや光衛星通信との連携によって、地上から宇宙までどこでも“繋がれる”環境を構築する――。この実現に向けた動きが国内外で加速している。

衛星通信業界では今、低軌道衛星コンステレーションによって衛星ブロードバンドサービスを提供する計画が数多く進んでいる。低軌道衛星コンステレーションとは、低軌道(地上から2000km以内)に打ち上げた複数の小型衛星を互いにネットワーク化して運用する方法。代表的な取り組みがSpaceXの「スターリンク」だ。これまでに打ち上げた衛星は530基超、最終的には約1万2000基を打ち上げる(最新の報道ではさらに3万基を連邦通信委員会に追加申請しており、計4万2000基といわれている)。2020年内に試験サービスを一部地域で開始し、2021年に本格的にサービスインする予定だ。

AmazonやFacebookも同様のサービスを計画している。

しかしなぜ今、衛星ブロードバンドサービスを提供するのか。「先進国ではどこでも当たり前のようにインターネットに繋がるが、アフリカや南米、アジアの発展途上国など世界の約35億人はインターネットに接続できない環境にある。そこにインターネット環境が提供されれば、彼らのSNSや決済サービスなどの市場がそれだけ拡大する。こうしたエリア全てに地上設備でインターネットを提供するには労力も費用も相当かかるが、衛星通信を使えば、地上にそこまで大きなインフラは必要ない」と野村総合研究所の八亀彰吾氏は説明する。

野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グローバルインフラコンサルティング部 八亀彰吾氏
野村総合研究所 コンサルティング事業本部
グローバルインフラコンサルティング部 八亀彰吾氏



低軌道衛星は静止軌道衛星に比べ、遅延が小さいというメリットがある。静止軌道衛星は地上から3万6000kmの軌道に位置しており、低軌道に比べ往復の距離が長い分、遅延が大きい。また、「静止軌道衛星は常に同じエリアの上にいるので、特定のエリアとしか通信できない。しかし低軌道衛星コンステは地球の周りを特定の場所に留まらず移動しているので、海上も含めて地球全体をカバーできる」という。

こうした通信網が実現することで、地上全域はもとより、飛行機内や船の上などでも、高速で安定した通信が可能になる。BtoBにおいても、例えば5Gのバックホールとして利用するなどの構想がある。

「従来、人工衛星といえば一品ものだったが、スターリンクのように数万基規模のコンステが普及すればその維持のために年間で数千基が打ち上がる。これまで宇宙産業になかった量産という概念が出てくる可能性もある」

月刊テレコミュニケーション2020年8月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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