実案件で見るvRXの効果 クラウドと一緒に伸び縮みvRXの登場によって、ヤマハユーザーはクラウド内のネットワークにも手を伸ばせるようになる。これにより、どんな価値が生まれるのか。vRX導入案件の例を紹介しながら見ていこう。
まず、冒頭に述べたセンター拠点のラックスペースの問題が解消される。「センター側のシステムがそれほど複雑でない、つまりクラウドに移行しやすい数十から数百拠点のお客様」こそ、vRXがハマるケースだと小島氏は話す。
その実例を示したのが図表1だ。数百店舗を持つチェーン店のPOS管理システムをクラウド化したケースである。Amazon VPCでPOS管理サーバーとvRXを運用し、拠点ルーターとインターネットVPNで接続した。回線を冗長化し、もしフレッツ網に障害が発生してもモバイル網経由でシステムを継続利用できる。vRXはL2TP/IPsecに対応しているため、スマートフォン等からでも簡単にVPN接続が可能だ。
図表1 案件例① 数百拠点の店舗展開をクラウドで(画像をクリックで拡大)
物理ルーターから仮想ルーターに変わっても、こうした冗長構成が“今まで通り”のコマンドで設定できるのが嬉しいところだ。
もう1つのメリットはスケーラビリティだ。クラウドと同じようにネットワークも必要に応じて伸縮できる。
このメリットを活かそうというのが図表2のケース、ある通信キャリアが提供する機器監視サービスの例だ。
図表2 案件例② 某キャリア様の監視サービス
ユーザー拠点にあるPOS端末や監視カメラ等の稼働状況をインターネットVPN経由で監視するもので、ユーザーごとに閉域で接続するため、従来はセンター側にも1台ずつ監視サーバーとルーターが必要だった。これでは機器コストが高くなり、スモールスタートもし難い。
そこで、監視サーバーをAWSに移行し、拠点とのVPN接続にvRXを活用。ユーザーごとにアベイラビリティゾーンを分けることで閉域環境を実現した。
vRXは、VPN10対地・10Mbpsと小規模に使えるライセンスが用意されており、当初は小さく始め、ユーザー拠点数の増加に応じて容易に性能を上げることができる。機器の入れ替えも当然不要で、VPNライセンスを追加購入するなどの操作だけで簡単にスケールが可能だ。
小島氏によれば、こうしたスケーラビリティを活かしたvRXの活用法を検討するサービス事業者は多いようだ。「数万単位のVPNを使ったサービスを提供している事業者からもご相談が来ている」という。
NWエンジニアをクラウドの世界へ 「スキル磨きもお手伝いする」ただし、これらのメリットを存分に発揮するには課題もある。
1つが、VPN利用時のスループットだ。暗号処理専用のチップが使えるハードウェアルーターとは異なり、仮想ルーターではクラウドのCPUリソースで暗号処理を行うため、VPNスループットが落ちる。目的・用途に合わせて、インスタンス性能を適切に設定する必要がある。
先述のようなIoT用途の場合は低スループットでも十分に用を足すが、映像伝送のように広帯域が必要な場合は、VPN対地数を減らしたり、インスタンス性能を上げたりする必要がある。ヤマハでは多様な用途に対応できるよう、サイジングに必要な指標を公開し、またインスタンスタイプのサポート範囲も広げていこうとしている。
もう1つの課題は、ネットワークエンジニアにクラウド関連スキルが不足していることだ。先述のような仮想ルーターの利点を多くのユーザーが享受できるようになるには、SIer/NIerのスキルアップが欠かせない。
これを解消するためには、「クラウドの知識を学ぶ教育の場を作らなければならない」とネットワーク戦略グループ 主幹の伊藤暢晃氏は話す。「各パートナー企業と協力して勉強会やセミナーを実施」する考えで、ネットワークエンジニアがクラウド時代に必要なスキルを磨くためのサポートにも力を入れる。
ヤマハ 音響事業本部 コミュニケーション事業統括部 ネットワーク戦略グループ 主幹の伊藤暢晃氏
また、ヤマハルーターと言えばWebサイト等で豊富なコンテンツが提供されている点もユーザーから好評だったが、「vRXでも同じように充実させていく」と小島氏は語る。すでに、AWSのコンソール上で仮想ネットワークの設定を行うためのマニュアルとして「vRXユーザーガイド」を公開。“AWSのサイトを見るよりもわかりやすい”との声が寄せられている。
このように、クラウド移行の初期段階に最適な小規模ネットワーク用ライセンスを用意し、さらにエンジニアのスキル強化を全力でサポートしようとする姿勢は、いかにも長年にわたり中小規模ネットワークを支えてきたヤマハらしい。これからクラウドネットワークを始める企業にとって心強い味方になりそうだ。
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