無線LAN(Wi-Fi)の通信速度が有線LANを上回る逆転現象が生じたのは、2016年頃のこと。IEEE802.11ac Wave2の導入が始まったときだ。
11ac Wave2の理論上の最大速度は6.9Gbps(8ストリーム時)で、主に流通している4ストリーム対応アクセスポイント(AP)でも最大速度は約2Gbpsとなる。APを収容する有線LANが1Gイーサネットの場合、その性能はフルに発揮できない。
そして今後は、次世代Wi-Fi規格である11axの導入が始まる。企業向けの11ax対応APは当初、最大速度が2.5Gbps程度のものが出てくると予想され、有線LAN増速の必要性はますます高まる。なお、家庭向けでは、4ストリームで最大速度が約6Gbps(5GHz帯で4.8Gbps、2.4GHz帯で1.15Gbps)のAPも登場している。
もちろん、Wi-Fiを使用しない場合でも状況は変わらない。企業で使われるデータ量は急増しており、現在は1Gが主流の有線LANも、そろそろ「10G化」へ動き出すべきときだ。中小企業向けネットワーク製品で高いグローバルシェアを持つネットギアジャパン プロダクトマーケティングの曽利雅樹氏は、「10Gスイッチのニーズは高い。最近まで、どちらかというと販売店のほうが提案に消極的だったが、お客様から我々に直接10Gスイッチの問い合わせが来ることも多い」と話す。
図表1 11ax導入がもたらす有線LANの課題
スイッチ交換だけで2.5/5Gbpsでは、現在使っている1Gスイッチを10Gスイッチに置き換えればいいのかというと、そうは簡単にいかない。そもそも2.5Gbps程度のWi-Fiの速度に比べてオーバースペックになるし、コストも高くつくからだ。
10Gスイッチの価格はかなり低廉化してきているので、この点はさほど問題にならない。問題は、LANケーブルの配線コストだ。10G伝送を行うにはカテゴリー6A(以下、Cat 6Aのように表記)以上のケーブルが必要なため(図表3)、Cat 5e/6ケーブルを敷設している場合は張り替えなければならない。
図表2 10G対応スイッチの導入に関する難点
図表3 ケーブル規格と通信速度
この問題を解決するため、10Gイーサネットの後に標準規格化されたのが「マルチギガビットイーサネット」だ。2.5Gbpsまたは5Gbpsの伝送速度を、Cat 5e/6ケーブルで実現する規格である。これならスイッチだけを入れ替えればよい。
マルチギガビットイーサネットが登場したのは2016年だ。11ac Wave2の普及に備えて、9月にIEEE 802.3bz-2016として承認された。これに先立つ2015年にシスコシステムズが「MGig」の機能名で対応スイッチを発売。ヒューレット・パッカード・エンタープライズも「SmartRate」の機能名で対応スイッチを提供するなど、多くの製品が流通している。