サテライトオフィスを導入する企業が増えている。
サテライトオフィスとは、企業の本社や支社・支店とは別に設置するオフィスのこと。地方や郊外を本拠とする企業が都心にサテライトオフィスを設けたり、地域活性化を推進する自治体の支援を受け、都市部にある企業が地方に開設するケースもある。最近は働き方改革の一環から、社員の自宅や営業先の近くにテレワークを行う場所としてサテライトオフィスを置き、オフィスまでの移動時間を削減することで業務効率化を実現しようとする企業が目立つ。
大手企業の中には自前でサテライトオフィスを開設するところもあるが、コスト負担が大きい。そこでオフィスと遜色のない通信環境やOA機器などを備える「シェアオフィス」を自社のサテライトオフィスとして活用する動きが見られる。
例えば日立製作所は、シェアオフィスを運営する企業と契約することで、首都圏近郊30カ所でグループ会社を含む約3万人の社員がサテライトオフィスを利用できる環境を整備する。
図表 サテライトオフィス設置前と設置後
出典:ネットワンシステムズ
シェアオフィスを商材として提供そうしたなか、シェアオフィスを商材の1つとして取り扱うICTソリューションベンダーも増えている。
NTTドコモは昨年6月、三井不動産のシェアオフィス「WORKSTYLING」とクラウド電話帳などを組み合わせ、テレワークの導入をワンストップで支援するソリューション「ワークスタイル・イノベーションパッケージ」の提供を開始した。
ドコモでは2010年4月からテレワークを導入している。法人ビジネス本部を対象に同ソリューションを活用したテレワークを実施したところ、移動にかかる時間が減少する一方、提案資料作成など付加価値につながる作業に割り当てる時間が増加したという。
東急電鉄が運営するシェアオフィス「NewWork」の仲介事業に乗り出したのは、NIerのネットワンシステムズだ。顧客に働き方改革を提案する際の一商材として、シェアオフィスを取り扱っている。
東急電鉄が運営するシェアオフィス「NewWork」はフリーアドレスで、Wi-Fiや複合機も利用できる
ネットワンシステムズは、インターネット市場の成熟化による収益の大幅な落ち込みを契機に、2008年頃から生産性向上を目的にした働き方改革に取り組んできた。「試行錯誤の末、(経営層の)ビジョン、(社員の)意識、ICTツール、ファシリティ、(人事などの)制度が働き方改革の実現には必要との結論に達した」と市場開発本部ICT 戦略支援部ワークスタイル変革チーム マネージャーの手塚千佳氏は話す。
シェアオフィスは、これら5つの要素の中でファシリティに含まれる。このファシリティにおける最大の課題が、「テレワークに適した場所がない」ことだという。
ネットワンシステムズ 市場開発本部ICT 戦略支援部ワークスタイル変革チーム
マネージャー 手塚千佳氏(左)と経営企画本部 新規事業推進室 シニアエキスパート 岸上要太氏
育児中あるいは介護中の社員には在宅勤務を認めているが、手狭な日本の住宅では仕事に集中するスペースを確保するのが難しい。街中のカフェなどを利用する方法もあるが、もともと仕事をすることを目的としていないため、周囲の雑音が気になって集中できなかったり、会社の重要情報を他人に盗み見られるなど情報漏えいリスクもある。
「我々が働き方改革を推進する上で直面した課題は、これから働き方改革に取り組む企業にとっても課題となるはず。シェアオフィスの需要は今後ますます高まると考え、新規事業として立ち上げた」と経営企画本部 新規事業推進室シニアエキスパートの岸上要太氏は説明する。
ネットワンシステムズでは、東急電鉄以外のシェアオフィスにも提携先を広げる計画。「1つのシェアオフィス事業者が抱える拠点数は、多くても数十拠点程度。大勢の社員を擁する大企業がテレワークを認めると、状況や地域によって利用したくてもできない人が出てくるだろう」(岸上氏)というのが理由だ。
複数のシェアオフィスの中から選べるようにすることで、より多くの人が時間や場所に関係なくテレワークを行える環境を提供する。
ネットワンシステムズでは、シェアオフィスに関連したスマートフォン向けアプリケーションの提供も検討している。
まだ実証実験段階だが、「現在地の周辺にあるシェアオフィスを地図上で一覧できる仕組みを提供するほか、テレワークにまつわる様々な課題を解決するための機能も追加する」(岸上氏)。一例が勤怠管理だ。オフィス以外の場所で仕事をしていると、上司や同僚と現在のステータスの共有が難しくなりがちだ。そこでこのアプリでは、テレワークを開始すると管理者を含むチームのメンバーに通知され、「どこで、何をしているか」が共有される仕組みが実装されている。また、ネットワンシステムズが取り扱っているビジネスチャットやビデオ会議システムなどのICTツールをこのアプリケーションから利用できるようにする予定だ。