防犯や安全・安心を目的に、監視カメラを導入する企業や自治体が増えている。
2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、会場周辺に約3000台の監視カメラが設置された。日本でも2020年に向けて、東京を中心に首都圏では同規模まで設置台数が増えるとともに、併せて監視カメラのネットワーク化が進むと見られている。
フルHDから4Kへの高精細化・高解像度化も進んでいる。4K対応ネットワークカメラなら、遠隔で撮影した映像から特定の場所を切り出してクローズアップしても、ぼやけることなく鮮明に映し出すことが可能だ。このため、平常時は街中やスタジアムなどの広域監視に用い、事件やトラブルが発生した際に不審者の顔や自動車のナンバープレート、手元の紙幣の模様などを拡大表示し確認するといった使い方も実現できる。
ただ、4K対応カメラの画素数は3840×2160で、フルHD(920×1080)の約4倍、SD(720×480)の約24倍にもなる。防犯用途ではカメラを24時間365日稼働し続けることが必要であり、4K映像のデータ量は膨大になる。ネットワークの帯域を圧迫することが大きな課題だ。
屋外にネットワークカメラを設置する場合、自由度の高さから無線ネットワークが適しているが、2020年に商用サービスが始まる5Gを持ってしても限界がある。そこで2つの新技術に期待が集まっている。
通信内容に応じてNWを振り分けNTTネットワークサービスシステム研究所が取り組んでいるのが、NFV・SDN技術を活用した「ネットワークスライシング」だ。
これは、ネットワークを仮想的に分割(スライス)することで、多様なニーズに応える技術のこと。トラフィック量や通信内容に応じて、最適な仮想ネットワークを柔軟に構築する。さらに、NTTの研究所では仮想ネットワークの構築およびトラフィックの振り分けを動的に行う技術など踏み込んだ研究開発に取り組んでいる。
例えば、通常は「ベストエフォートスライス」という速度重視のスライスを用いて標準画質で監視を行い、不審者を検知するとカメラの画質を4Kに切り替えると同時に、ネットワークについても「高性能スライス」に切り替え、高精細な画質で人物を特定可能にするといった使い方が想定されている。
防犯事業者やカメラメーカーなどネットワークカメラを使ったサービスを提供している事業者は、必要なときだけ広帯域のネットワークを使うことができ、コストを抑えられるという。
不審者を発見したら「広帯域のネットワークに変更」といったことが可能に
「トラフィックのひっ迫というIoT/5Gにおける課題を解決する1つの方法であり、アプリケーションからネットワークまで一気通貫に提供できることも重要になってくる」とNTTネットワークサービスシステム研究所 ネットワークシステム研究開発企画推進プロジェクト ネットワークオープンイノベーション戦略DP研究員の吹上悠貴氏は説明する。
NTTネットワークサービスシステム研究所 ネットワークシステム研究開発企画推進プロジェクト
ネットワークオープンイノベーション戦略DP研究員 吹上悠貴氏
ネットワークスライシングに加えて、NTTの動的制御機能を使用する場合、動的制御機能が振り分け機能に入ってくるトラフィックを監視しており、その状況に合わせて振り分けルールを動的に切り替えるとともに、オーケストレータにも指示を出すことでスライスが生成される。
例えばトラフィックが増えると、行先の変更と高性能スライスの生成を指示する。これにより、エンドユーザーが意識しなくても常に最適な通信サービスが提供される仕組みだ(図表1)。
図表1 「ネットワークスライシング」のイメージ
ネットワークスライシングは、基本的には1つの通信事業者のネットワーク内で提供されるものだが、NTTネットワークサービスシステム研究所では異なる複数の通信事業者が連携したネットワークスライシングの実現も目指している。
異なる通信事業者の回線を相互接続するポイント(POI)における仕様が統一されれば、ネットワークを利用するサービス事業者からの指示により一括で自動設定できるようになる。ネットワークカメラであれば、高解像度の映像伝送向けは大容量通信用ネットワーク、標準画質向けには通常通信用ネットワークというように、サービス事業者が目的に合わせて最適なネットワークを通信事業者に関係なく提供することも可能になるという(図表2)。
図表2 事業者を柔軟に組み合わせたサービスイメージ
ただ、その実現のためには越えるべき「壁」も存在する。「ネットワークスライシングにはNTT以外にも多くの企業が取り組んでいるが、まだ標準化方式が定まっておらず、検討すべき課題も多い。安価なサービスとして実用化するには、標準化の段階から積極的に関わっていく必要がある」と吹上氏は話す。NTTネットワークサービスシステム研究所では、複数の通信事業者の連携を可能にするため、実証実験の成果を各種標準化団体にアピールしていく予定だ。