ロボットを無線経由で遠隔制御するにあたり、課題の1つとなるのが制御の精度だ。その解決策として、超低遅延を実現可能な5Gに対する期待が高まっているが、現在の無線技術のままでも高精度にロボットを協調制御できる技術をNECと日本電産(Nidec)が共同開発した。
同技術の代表的な活用シーンが工場で利用されている無人搬送ロボット(Automated Guided Vehicle、以下AGV)だ。
AGVには、工場の床に貼られた磁気テープの上を走るタイプと、磁気テープが不要な無軌道型があるが、現在NECとNidecが想定しているのは、後者の無軌道型のAGVへの同技術の適用だ。離れた場所にある制御サーバーの制御コマンドを無線経由でAGVに送信し、AGVをリアルタイムに遠隔制御する。
無線はノイズや障害物などの影響を受けて通信遅延が発生するため、高い精度が求められるシステムの制御には向かないというのが一般的な認識だ。しかしながら、今回開発した技術を無線LANやLTEで検証したところ、非常に高精度でAGVを制御できたという。
NECによれば、この技術は特定の無線技術に依存するものではない。「我々の技術は無線そのものを良くするためのものではなく、現状の通信遅延がある無線環境のなかで、高精度な協調制御を実現するための技術だ」とNECの吉田裕志氏は説明する。
(左から)NEC 中央研究所 システムプラットフォーム研究所 主任研究員 吉田裕志氏、
同研究所 スマートコミュニケーションTG 熊谷太一氏、同研究所 部長 里田浩三氏。
熊谷氏が手に持っているのがAGVのプロトタイプ
直近数十秒のデータで遅延予測図表に描かれているのは、共同開発した技術を用いてAGVを無線経由で高精度に制御する仕組みだ。
図表 ロボットを無線で協調制御する技術の仕組み[画像をクリックで拡大]
まず「1.通信遅延の予測」だが、無線通信は通信回線が一時的に「通信不能な状態」と「通信可能な状態」を行き来する。NECは、その通信不能と通信可能の2状態が行き来する確率が、シクロヘキサンという分子の2状態が遷移する確率に類似していることを発見。物理学ではシクロヘキサンの2状態遷移の分析手法はすでに確立しているため、その分析手法を応用して未来の通信遅延を高精度に予測する手法を考案した。
予測のために用いるデータは、直近数十秒分の通信の遅延データだ。制御サーバーがAGVに制御コマンドを送信してから、正常にコマンドを受け取ったことを知らせるACKがAGVから戻ってくるまでの往復時間を予測に活用する。吉田氏は、「数十秒より長いデータを使ってもいいが、無線環境は時々刻々と変化するため、古いデータがあると予測精度が悪くなる。我々のノウハウで最適なバランスを見極めた結果、直近数十秒のデータで遅延を予測している」と述べる。
未来の遅延時間を高精度で予測できると、「2.予測に基づく先回り制御」が可能になる。AGVへの制御コマンドが到着する時刻に、AGVはどこに居てどのような状態であるかを正確に予測した上で、制御コマンドを送信できるためだ。
NECの里田浩三氏によれば、「遅延予測に基づいてAGVを遠隔制御したところ、従来技術より30%も短い時間で所定コースを逸脱せずに走行させることができた」という。