物流業界では現在、ドライバー不足と高齢化が大きな課題となっている。
その解決策の1つとして期待されているのが「トラック隊列走行」だ。有人運転の先頭車両と、無人走行する後続車両を無線通信によって連結し、隊列を組んだまま走行させるものだ。1人のドライバーが複数のトラックを運行できるため人手不足の解消につながる。
5G技術を活用した隊列走行のデモの様子。
茨城県城里町で行われ、その模様が5G国際シンポジウム会場にライブ中継された
このトラック隊列走行を、第5世代移動通信システム(5G)を使って実現しようとする取り組みが進んでいる。ソフトバンクとそのグループ会社であるSBドライブ、自動運転技術を研究・開発する先端モビリティの協業プロジェクトで、2017年12月から茨城県つくば市で実証実験を行っている。
その取り組み内容と成果について、ソフトバンクの先端技術開発室・先端技術研究部で担当部長を務める吉野仁氏が「5G国際シンポジウム2018」で講演を行った。
「V2N2V」「V2V」「V2N」の3方式を組み合わせ
吉野氏は隊列走行について、ドライバー不足の解消だけに留まらない幅広いメリットが期待できると話す。
ソフトバンク 先端技術研究部の吉野仁氏
まず、物流のコスト構造を大きく変えることで、物流会社の収益構造が改善できる可能性がある。また、車間距離を縮めて走行できるため「道路のキャパシティが上がり、より多くの車両が走れる。渋滞の緩和にもつながる」という。
CO2削減にも貢献する。隊列を組んで走行することによって、後続車の空気抵抗が減るためだ。吉野氏によれば、車間距離が2mまで縮まれば、約4分の1の燃費改善効果が見込めるそうだ。
この隊列走行を実現するには、高精度な車両の制御が不可欠になる。鍵となるのが、隊列を組む各車両をつなぐ無線通信の「信頼性」と「遅延」だ。
そこで期待がかかるのが、5Gの特徴の1つである超高信頼・低遅延通信「URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)」である。3GPPおよびITU-RはURLLCの条件として、32バイト以上のパケットデータ量の99.999%以上の送信成功率と、無線区間1ms以下の低遅延を定めている。
この特徴を活かし、「先頭車両の制御情報を後続車に送り、自動運転の後続車を『電子牽引』する。また、後続車の周りの状況を先頭車両のドライバーに映像で伝送する」(吉野氏)ことで、安全な隊列走行の実現を目指す。
では、具体的にどのようにして車両間の通信を行うのか。ソフトバンクでは3種類の通信方式の適用を検討しているという。【1】V2N2V via BS、【2】V2V Direct、【3】V2Nだ。
トラック隊列走行を実現するうえで3種類の通信方式を検討している
【1】の「V2N2V」とはVehicle to Network to Vehicleの略で、ネットワーク設備、つまり基地局(BS)を介して通信を行う方式。【2】V2V Directはその名の通り、車両間(Vehicle to Vehicle)で直接通信する。
【3】V2Nは、上記2つとはユースケースが異なる。トラックの運行管理を行う遠隔監視センターと先頭車両を有線ネットワークを経由してつなぐ。