電力線を使ってデータの送受信を行う高速PLC(広帯域電力線搬送:High Definition Power Line Commmunication)。電源のあるところであれば簡単にネットワークを構築できる点に加えて、伝送距離の長さや通信の安定性、電力消費の高効率性といった特徴から、IoT向けとして最近注目が高まっている通信規格だ。
しかし現実には、国内では「法改正」という大きな壁が立ちはだかり、なかなか実用化には至っていない。そうしたなか、変化の兆しが見え始めた。
2017年10月、総務省 情報通信技術分科会の作業班において、高速PLCを含む広帯域電力線通信方式の利用範囲拡大に関する検討がスタートした。電波漏えいや環境雑音に対する懸念から、現行の電波法では原則として屋内と敷地内に利用は限られている。
ただ、屋内で認められているのは施設内配線のみで、工場の三相電力線(三相交流電力を3本の電線・ケーブルを用いて供給する配電方式)などでの利用は禁止されている。また、屋外のアクセス系(電力)も利用が認められていない(図表1)。この現状を変えようとしているのが電波利用環境委員会で、屋外や三相電力線の利用に関する法制化の可能性を探ることを目的としている。
図表1 国内における高速PLCの利用範囲 |
他方、経済産業省も動き出している。同省が2017年5月に発表した「新産業構造ビジョン」ではイノベーションの成果を新たな付加価値の創出につなげるため、「レギュラトリー・サンドボックス」の必要性が示されたが、その対象の1つとして高速PLCによるネットワーク化が盛り込まれたのだ。
レギュラトリー・サンドボックスとは、日本語で「規制の砂場」を意味する。参加者や期間を限定して試行錯誤を許容することで規制緩和を目指す制度であり、すでにシンガポールやマレーシア、香港などで採用されている。政府が主導する「未来投資会議」においてもレギュラトリー・サンドボックスについて言及され、その具体的な事例の1つとして「高速PLCの野外使用による新ビジネスの創出」が挙がった。
こうした状況に、HD-PLCアライアンス会長の荒巻道昌氏は「事業化の道が開けてきた」と期待を隠さない。
それでは、これらの利用拡大に向けた法制化が実現すると、高速PLCはどのような利用が可能になるのだろうか。