「新聞でも、IoTの記事を見ない日がないくらいだ。しかし、騒がれているわりには大したことがないと思われている方もいるのではないか」。こんな話から講演を始めた京セラコミュニケーションシステム(KCCS) 代表取締役社長の黒瀬善仁氏。世の中の期待通りに、IoTが普及していないことを示す証拠も見せた。
総務省の情報通信白書は、2020年の世界のIoTデバイス数について、2015年に530億台と予想していた。しかし、2016年の情報通信白書では、304億台に下方修正されている。
情報通信白書のIoT市場予測。1年でIoTデバイス数が大幅に減少した
一体なぜか。「開発費や通信費がかさむのがネックになっており、今のIoTは氷山の一角にとどまっている」と黒瀬氏は指摘した。
海の中に隠れた、すなわち、まだIoT化されていないデバイスがネットワークにつながるようになれば、いよいよIoT時代の本格到来となるが、なかでも「カギになる」とされたのはセンサーである。
今のIoTは氷山の一角
黒瀬氏は、2023年には毎年1兆個のセンサーが出荷される時代が到来すると予測した「トリリオン・センサー・ユニバース」という構想を紹介。そのうえで、「今まで漠としか把握されていなかったものが、手に取るように分かる時代がやってくる」とした。
「なぜ雨量や水位がピンポイントで分からず、洪水を予測できないのか。現状は大型河川を中心に、まばらにしか設置されていないからだ。これまでのIoT通信は、必ず月額数百円以上の通信費がかかる」
こうした現在の常識に大きな変化をもたらすのが、KCCSが今年2月から始めたIoT向け通信サービス「SIGFOX」だという。100万回線以上・1日の通信が2回以下という条件であれば、年額100円からの通信費で利用できる。
「これだけ低コストになれば、今までコストの問題でネットワークにつなげられなかったモノがつなげられるようになる。ちなみに私どもで最も多く想定しているケースは、1日の通信回数が50回以下で、契約台数が数万台。この場合は、だいたい年額で数百円の真ん中を想定している」
SIGFOXの概要
SIGFOXの下りサービスも秋以降にスタート?!SIGFOXは、データレートは低速ながら、低消費電力と広いエリアカバレッジを特徴としたLPWAの一種である。代表的なLPWA技術としては他にLoRaやNB-IoTなどがあるが、黒瀬氏は「用途によって棲み分けがなされると考えている」と説明したうえで、SIGFOXの技術的特長をアピールした。
SIGFOXとNB-IoTのポジションの違い
まず強調されたのは、「きわめてロースペック」なことだ。通信速度は100bpsと、LPWAの中でも低いが、「これがコストに効いてくる」。通信料金については前述の通りだが、無線チップも1.5ドル程度で発売されている。このため、温湿度や加速度などのセンサーには最適だという。
1基地局当たりの同時接続デバイス数も多い。SIGFOXが利用する920MHz帯の1チャネルは200kHz幅あるが、SIGFOXが1つの通信で使うのは100Hzに過ぎないため、同時に300デバイスが接続できるという。再送制御についても上位のアプリケーションで行う必要はなく、ネットワーク側で実施される。また、SIGFOXの通信に必要な狭帯域の電波だけを受信できればいいので、隣り合う電波との干渉にも強いそうだ。
加えて、SIGFOXのネットワークは、国内ではKCCSが統一的に提供しているため、「ゲートウェイの互換性の問題に悩まされることはない」。しかも、SIGFOXは2018年3月までに世界60カ国で提供される予定で、世界中どこに移動しても同じIDで利用できる。
「まさにウルトラナローバンド、グローバルワンがSIGFOXの強みだ」
SIGFOXの国内エリア展開計画
一方、弱みとよく指摘されるのが、上り通信にしか利用できないことだ。しかし、黒瀬氏は「これは仕様の問題ではなく、国内の法制度の問題。他国では下りも提供されている。日本でも早ければ秋以降、下り通信が可能になるのでは、と期待している」と説明した。
「下りサービスを利用することで、気温や湿度、土壌水分などの情報をもとに、スプリンクラーを回すといった制御も可能になる」
SIGFOXの下りサービスの概要
このようにネットワークにつながったセンサーの情報を活用し、世界中の状況をピンポイントで可視化したり、リアルタイムに制御することが可能になるのが、これからやってくる未来だ。
「世の中、ビッグデータ時代と言われているが、そのためには安価にビッグデータを収集する仕組みが欠かせない。それがSIGFOXだ」と黒瀬氏は講演を締めくくった。