ARで現場作業の支援や人材育成現実世界にデジタル情報を重ねる「AR(Augmented Reality:拡張現実)」――。ポケモンGOの大ヒットによって広く知られることになったAR技術は、働き方の未来にも大きな変革をもたらす可能性がある。従業員の認識力やスキルを「拡張」する力を秘めているからだ。
例えば、新日鉄住金グループ企業のある現場では、設備の定期点検作業などにおけるAR活用の実証検証を行っている。
スマートグラスを装着した保守員の視界に広がるのは、目の前にある保守対象の装置だけではない。その装置に関する各種情報や具体的な作業手順が、ARによって合わせて表示される。「例えばタンクを見ると、圧力などの情報や、バルブを90度回転させるといった作業指示が表示される」。こう説明するのは作業支援アプリケーションを開発・提供している新日鉄住金ソリューションズ IoXソリューション事業推進部 専門部長の井上和佳氏だ。
図表 新日鉄住金ソリューションズの作業支援アプリケーションイメージ
ARとスマートグラスによって拡張された現実の中で作業を行うメリットは、効率的でミスの少ない作業が可能になることだ。従来のようにいったん手を離して、紙の資料やタブレットにあたってマニュアルや作業指示書を確認する手間が必要ない。また、スマートグラスに表示された指示通りに作業に従って作業を進めれば、ミスも起こらない。
井上氏によると作業効率は10~20%向上するほか、ミスが減ることでリカバリーの処理時間も削減できるという。「指示通りに作業しないと、次の動作に進めないようにもできる。作業終了後に写真を撮っておけば、エビデンスとして残すことができ、作業者の安全を守ることにもつながる」。
ARによってスマートグラスにさまざまな情報や作業手順が表示される
さらに、ARには教育効果もある。スマートグラス内に表示された指示に従いながら作業を行うことで、熟練の作業者と同じ動きが自然と身に付いていくからだ。「初心者でも効率よく分かる。従業員は成長を実感できるので、定着率向上にも貢献するのではないか」と井上氏は話す。