2016年のユニファイドコミュニケーション(UC)市場は、マイクロソフトが提供するSkype for Business/Office 365の強さが際立った。
同社は詳細なユーザー数を公表していないが、日経225銘柄の企業でマイクロソフトのクラウドを利用する企業は約80%に及ぶ(同社発表)という事実から、その強さを推し量ることはできる。これはOffice 365、Azure、Dynamics CRM Onlineのいずれかを利用する企業の割合を示したものだが、Office 365はその大部分を占めており、少なく見積っても6~7割の企業がOffice 365を使っていると推測される。
プレゼンス、IM、メール/グループウェア、Web会議、SNS、音声通話とコミュニケーション/コラボレーション基盤を包括的に提供し、かつ、オンプレミスもクラウドも、ハイブリッド型のどの形態にも対応できる幅広さを持ったプレイヤーは、UC市場で唯一の存在だ。競合ベンダーがクラウド化で遅れを取るうち、一気にUC市場の主役に躍り出た格好だ。
単独で対抗し得る競合は今のところ見当たらない。UC市場はマイクロソフトの“一強時代”も予想される状況だ。IDC Japanでリサーチ第2ユニットディレクターを務める眞鍋敬氏が「強い。ここ数年で一気に来た」と話せば、ガートナージャパンのリサーチ部門ネットワーク担当リサーチディレクターを務める池田武史氏も「他のUCベンダーにとっては今が最後のチャンス」とライバルの奮起を期待する。
音声のクラウド化は進むかマイクロソフトの優位が強まることで、大きな影響を受けるのがPBX業界だ。
これまでは、Skype for BusinessとPBXを連携してUC環境を作るのが国内企業の典型例だった(図表1)。
図表1 Skype for Business/Office 365による音声システムの構成例(1) |
SfB:Skype for Business V-GW:VoIPゲートウェイ |
だが、マイクロソフトは今後、Office 365にPBX機能も統合し、音声も含めたUCをクラウドで提供する戦略を進めていく(図表2)。これが成功すれば、Skype for Businessとハード型PBXの共存は難しい。
図表2 Skype for Business/Office 365による音声システムの構成例(2) |
SfB:Skype for Business CCE:Skype for Business Cloud Connector Edition V-GW:VoIPゲートウェイ |
つまり2017年、いよいよPBXビジネスの「デジタル破壊」が本格化する。Office365のユーザーに限らず、すでに電話以外のツールはクラウド上の機能を複合的に利用する形態が主流になっている。PBXベンダーもクラウドを主軸とした戦略へと転換を迫られることになる。
マイクロソフトが挑む「PBXのクラウド化」は、これまでも多くのクラウド事業者が挑みながら、めぼしい成功を収められなかった分野だ。その大きな要因は、ハード型PBXの価格が下がり、クラウド化してもコスト削減効果が生じ難いことにある。池田氏も「PBXのクラウド化には時間がかかる」というのが基本的な見方だ。
ただ、その様相も変わってきている。
まず、PBX自体の価値が低くなった。今やメールやチャット、スマートフォンがあれば仕事はできる。もともと通話料削減のための仕組みだった内線電話も「携帯電話の通話定額化が進むことで不要になる」(池田氏)。むしろ、内線番号に縛られた働き方によってコミュニケーションの効率性が阻害されたり、運用管理が複雑になるという見方さえできる。
これまでのクラウドPBXの大半は、この内線電話番号と保留転送機能、つまり“いままでの電話”を継承しようとして複雑なソリューションになっていたと池田氏は指摘する。だが、電話機能の継承やPBX単体でのコスト比較ではなく、コミュニケーションの効率化という本質的な議論でUCの価値を検討する企業では、クラウドPBXへの移行が加速する可能性は十分にある。