“走るIoT”コネクテッドカーが生み出す新経済圏

クルマをクラウドや交通インフラ等とつなぎ、車両データや周辺データを収集・分析して活用できるようにするコネクテッドカー。この“走るIoTデバイス”を軸に、様々なビジネスが生み出されようとしている。

コネクテッドカーで何ができる?世界には現在、約11億台のクルマが存在するが、そのうちネットワークにつながっているのは2割に満たない。富士経済の調査によれば、通信モジュールを内蔵、あるいはモバイル端末と連携してインターネット接続が可能なコネクテッドカーの世界市場は、2014年末で全乗用車の14%に当たる1億1197万台とされている。

注目すべきは今後の伸び率だ。同調査では、30年にコネクテッドカーの数は全乗用車の55%以上を占める6億8249万台(累積台数)に達すると予測する。14年の約6倍だ。ガートナーも、20年までに自動車の5分の1が何らかの無線ネットワーク接続機能を搭載すると予測しており、コネクテッドカーの台数は2億5000万台を超えると見込む。

クルマのIoT化によって何が変わるのか。

コネクテッドカーとは、クルマ内のセンサーから得られるデータや周辺情報をモバイルネットワークを介してクラウド等に集積・分析して活用できるようにするものだ。

これまでも、自動車メーカーが運営するテレマティクスサービスで、いわゆるインフォテイメント(「インフォメーション」と「エンターテイメント」を提供する機能)が提供されてきたが、IoT化したクルマが増えれば分析できるデータが増え、さらに分析技術の高度化によって、より高度かつ多様なサービスが提供できるようになる。

これにより、クルマの付加価値が高まるだけでなく、自動車産業全体、さらに社会の仕組みまで大きく変わる可能性がある。

図表1 コネクテッドカーを実現する通信技術とサービス例[画像をクリックで拡大]
図表1 コネクテッドカーを実現する通信技術とサービス例

コネクテッドから自動運転へクルマ自体の進化については、データの分析結果をフィードバックして、運転効率や安全性を向上させたり、車内環境を快適にすることができる。

例えば、エンジン回転数や速度等の走行データを分析して、安全運転・エコ運転のための情報を提供したり、交通状況の変化に応じて最も効率の良いルートを選定してドライバーに提案できるようになる。トヨタ自動車のテレマティクスサービス「T-Connect」には、過去の走行履歴から行き先・経路を予測して、ルート上の事故・渋滞・天候情報を知らせる“先読み情報提供”機能がある。

運転環境を快適にする「ウェルビーイング」も、コネクテッドカーの有力なアプリの1つだ。ドライバーの健康状態や疲労をカメラ映像や生体センサーで探知して警告を出したり、音楽等のエンターテイメント機能を快適に使えるように、音声認識で車載端末を操作できるようにするといったものだ。

若年層のドライバーが減る一方で、高齢・富裕層が増加していることから、自動車メーカーが開発に注力しており、人間と対話できる人工知能(AI)を、車載機のインターフェースに用いようとする動きもある。これも、クラウド上のAIとクルマがつながって初めて実現できるものだ。

また、クルマのIoT化は自動運転の実現にも不可欠の要素だ。

基本的には、周辺車両や歩行者、道路状況を検知するセンサーと、車両自体の制御技術によって自動運転は実現されるが、センサーが感知できない範囲の情報や、交通状況の変化、地図情報等をリアルタイムにクルマに提供するためにネットワーク/クラウドとの接続は欠かせない。コネクテッドカーは、自動運転の実現に向けた準備とも言えるのだ。

月刊テレコミュニケーション2016年10月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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