「少し太って上着がきつい」「通販で買ったスラックスの丈を詰めたい」といったときに頼りになるのが、「お直し」のお店。
宮城県仙台市に本社を置くビック・ママは、首都圏を中心に全国の百貨店や駅ビルに62店舗を構える。手ごろな値段で丈詰めからほつれのかけはぎやサイズ直し、さらにバッグやベルトの修理なども手掛け、個人客の生活をサポート。顧客への丁寧な応対と確かな仕上がりでリピート客を掴んでいる。
ビッグ・ママ 代表取締役 守井嘉朗氏 |
多様なお直しメニュー 新人でも的確に対応したい同社の受付カウンターにこの春から登場したのがiPadだ。導入理由を守井嘉朗社長は次のように話す。
「若手の従業員が、少ない教育時間でも安心して働けるようにしたいと思ったのです」
基本メニューだけでも50種類を軽く超え、修理内容により受付時に留意する点も異なる。例えば身幅を広げる際は針あとが残る可能性があること、デザインが若干変わることなどを事前に丁寧に説明し顧客の同意を得ることが必要だ。
同社はケースごとの対応方法や失敗例などを直接の教育とグループウェアを通じて伝達している。しかし、見落としがあったり、たまにしか発生しない例は覚えきれないなど、ベテランでないとどうしてもミスが発生してしまう。顧客に迷惑をかけるのはもちろんのこと、従業員自身もダメージを受ける…。
そこで、専用紙による受付記録に代えてお直しの個所や内容をタブレットの画面から選んで受け付ける仕組みを考案。さらに直しの個所に合わせて注意事項を画面に表示させ、顧客に正しく説明できるサポート機能を持たせた。イメージに浮かんだのは「コンビニエンスストアのレジのわかりやすさ」だそうだ。
顧客情報もiPadから登録や読み出しができる。受付が完了すると金額が計算され、プリンターから伝票が出力される仕組みだ。
複写式伝票をプリント型へ 相手に応じて見やすさアップ紙の伝票からの置き換えは、ほかにも効果があった。
「メニューを網羅した複写式の伝票を作っていましたが、印刷費がかかるうえ、複写部分が見にくかったり見間違えるなどの課題がありました。iPadによる受付は、伝票の見やすさとコスト削減も実現したのです」と守井社長。
新システムでは、顧客向け、店舗控え、衣服に添付する作業指示の伝票3枚がプリントされる。対象ごとに必要な情報を見やすく配置し見間違いを防ぐ役割を果たしている。印刷コストは約3分の1になった。
システムはITベンダーのサーバーで運用し、月額料金を支払うクラウド型。開発費をまとめて支払い自社運用する場合に比べ初期投資費用は一桁下がったという。
クラウド型は、他社にシステムを提供しやすいメリットもある。お直しの業界では受付の大半がまだ手書き。守井社長は「アパレル業界や百貨店などにシステムを販売することも検討中」だという。
中小企業にITは必須 海外展開にも適用可能ビック・ママはブティックや百貨店などからお直し依頼を受けていた父の会社を受け継ぎ、守井社長が個人向けのショップ展開を図り事業を拡大してきた。
旺盛な事業意欲の源泉を尋ねると、「経営者は”欲張り”、お金が好き。1個より2個を貪欲に求めていくものだと思います。管理能力を磨いていけば、目の届く範囲を広げられます」と笑顔で話す。そして、「街が好き、女性の話を聞くことが得意」な自身の特性を活かして女性が活躍できる店舗づくりを行ってきたと振り返る。
システムによって受付も直しの現場もミスをする危険が減り、接客や直し作業に集中できる働きやすい環境になった。
「中小企業が大手に負けないように、と思ったら、ITは必須です」と守井社長は力を込める。
同社は現在、海外展開も進めている。その際は同システムのiPad画面を外国語対応して活用したいとのことだ。