「TDD版4G」がこれからの主役――5Gの中核技術「Massive MIMO」も前倒しで実用化へ

6月から利用が始まる3.5GHz帯には、日本の携帯電話向け周波数帯では初めて「TDD版4G」が導入される。TDD版4Gの特性を活用したソリューションの展開も加速してきた。

MU-MIMOで容量5倍にTDD版4Gの進化の方向性は大きく2つある。高速・大容量化とカバレッジの強化だ。

高速・大容量化では、(1)キャリアアグリゲーションの拡充(束ねられる帯域数の拡大)、(2)基地局と端末に8対のアンテナを実装して現行4Gの4倍の伝送能力を実現する8×8MIMOの適用、(3)高次変調技術256QAMの導入などが有効な手法として想定されているが、これらはシステム・端末の双方のグレードアップを前提としたものといえる。

これに対し、最近注目されるようになってきたのが、できる限り端末の更新を必要とせず(既存の端末を使いながら)容量の拡大などを図れる可能性を持つ技術・ソリューションだ。

その1つにMassive(大規模)MIMOの活用がある。

TDD版4Gが導入される3.5GHz帯などの高い周波数ではアンテナ素子が小型化できるため、これらを平面上に(タテ・ヨコに)多数配置し、MIMOや特定方向にビームを送受信するビームフォーミングを高度に活用することができる。Massive MIMOは、こうした超多素子アンテナを活用する技術の総称だ。5Gの基盤技術とされるが、それを先取りする形で16素子(4×4)を4Gで利用する技術が標準化されている。さらに、これ以上の多素子アンテナを活用しようという動きも出てきている。

Massive MIMOの有効な利用法として特に期待されているのが、MU(マルチユーザー)-MIMOだ。

MU-MIMOは、基地局側の多素子アンテナを活用し、端末側のアンテナ構成は変えずにネットワーク容量を拡大できる技術。TDD版4Gではすでにサポートしており、基地局側の素子数を増加させることで大幅な容量拡大が見込める。

ファーウェイ・ジャパンの鹿島毅氏は「2.6GHz帯を用いて、基地局に送受信各128個のアンテナを実装。既存の4Gスマートフォンを利用した場合で、容量を5倍に拡大できるシステムを実用化済みだ」と明かす。

もう1つMassive MIMOで注目されているのが、ビームの方向を3次元に変えられるFD(Full Dimension)ビームフォーミングだ(図表1)。鹿島氏は「垂直方向に指向性を変えられるので高層マンションのエリア対策にも利用できる」と見る。

図表1 FDビームフォーミングのユースケース
図表1 FDビームフォーミングのユースケース

同様に端末へのインパクトが少ないソリューションとしてファーウェイが力を入れているものに「Distributed MIMO」がある(図表2)。これは基地局を光ファイバーでデータセンターと接続して集中制御を行うクラウドRANを前提としたもの。各基地局のMIMOを協調制御することで、高密度置局に対応可能になるという。「この技術により基地局との境界付近でも通信品質が落ちない安定した通信が実現できる」と鹿島氏は見る。

図表2 Distributed MIMOのコンセプト
図表2 Distributed MIMOのコンセプト

さらに、TDD版4Gの拡張技術の中では、HPUE(High Power User Equipment)に対する注目も高まっている。現在200mWが上限の4G端末の出力を400mWに引き上げ、TDD版4Gのカバレッジを拡大しようというものだ。TDDの推進組織GTIのイベントでソフトバンクグループの孫正義CEOが標準化を呼びかけたことで大きな話題を集めた。実現のハードルは高いと見られているが、TDD版4Gのさらなる進化の可能性を拓くアイデアの1つと言えるだろう。

月刊テレコミュニケーション2016年5月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります

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