モバイルは医療現場をどう変えるのか――iPhone 3200台導入した慈恵医大の狙い

2014年に医療機関での携帯電話/スマホの利用が“解禁”されたのを受けて、医療・看護業務におけるモバイル導入が本格化する兆しが見えている。今後、医療の現場でどのように活用されていくのだろうか。

2014年8月に電波環境協議会が出した「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」によって、病院内における携帯電話の利用が事実上解禁されたのを受けて、モバイルを医療・看護の現場で活用しようとする動きが始まっている。

電波環境協議会はその後2015年9月に「医療機関における電波利用推進部会」を設置し、医療機関での適正な電波利用を促すため、電波環境の改善策や電波管理体制の整備策、医療ICTシステムの導入推進方策の検討を進めている。その結果は2016年3月頃に報告書として公表、医療機関向けには、適正な電波利用を実現するための手引きとして周知される予定だ。

こうした動きを背景に、医療・看護業務におけるモバイル活用が進展し、モバイル/ICTソリューションを提供するベンダーの間でも新たな市場創出への期待が高まっているが、それには解決すべき課題もまだ多いようだ。

モバイル医療阻む多くの壁1つは、電子カルテをはじめとする医療情報システムとモバイルの連携がこれまで進んでおらず、医療現場や病院の情報システム部門にモバイル活用の知見とノウハウが不足していることだ。

95社(2016年2月時点)が参画してiOSデバイスのビジネス利用の活性化を目的に活動しているiOSコンソーシアムで、医療ワーキンググループ(WG)のリーダーを務める名和輝明氏(京セラ丸善システムインテグレーション)によれば、特に大規模病院では、「モバイルはこれまで電子カルテシステムのオプションとしてしか捉えられず、それらの大手メーカーがモバイル対応に積極的でなかったことが普及を阻む最大の要因だった」と話す。先進的な病院で導入事例はできても「商流の問題で横展開が進まなかった。その状況は現在も変わっていない」という。

東京慈恵会医科大学で研究員を務める畑中洋亮氏(左)と、iOSコンソーシアム 医療ワーキンググループの名和輝明氏

もう1つ、コスト面の課題も大きい。多くの病院で使われているPHSは回線費が安いが、これをスマートフォンに置き換えれば追加の月額利用料が発生する。このコストを払うに足る投資対効果を出すのは簡単ではない。

加えて、業界全体が医療費削減へと進むなか、大半の病院がICT投資に慎重な姿勢を崩していない。解禁後も、国と他の医療機関の動きを見守る“様子見”が蔓延している状態だ。

とはいえ、モバイルを上手に活用すれば、業務の効率化、ひいては医療の質の向上や医療費削減にも役立てられるとの期待は高い。実際、携帯/スマホのメリットが活かしやすい救急医療や在宅医療分野、つまり「病院の外」では、モバイル活用が積極的に進められてきた。

4月から名和氏の後任として医療WGのリーダーを務める畑中洋亮氏(アイキューブドシステムズ・取締役)は「2010年頃から本格化した在宅医療、地域医療連携システムの構築では、当初からモバイル活用が重視されてきた」と話す。救急医療に関しても、2015年4月時点で10府県ですべての救急車にスマートデバイスが標準配備されるようになっており、2016年はさらに拡大する見込みだ。

では、医療機関内ではモバイルをどう使えば効果が上がるのか。モバイルソリューションを開発・提供するベンダーは、どういった視点で利用シーンを開拓し、提案を行えば良いのだろうか。そのヒントとなり得る先進的な取り組みが現在、東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)で進められている。2015年10月に3224台のiPhone 6を導入し、本格活用に踏み出したのだ。

月刊テレコミュニケーション2016年3月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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