ネットワークの異常を迅速に検知・診断したり、トラフィックの状態を可視化・分析して安定稼働と運用負荷削減を実現するなど、ネットワークの運用監視に不可欠な役割を果たしているネットワーク監視ツール。多様なアプリケーション/サービスが利用されトラフィックも増大するのに伴い、その重要度はますます高まっている。
さらに、セキュリティ脅威の増大も、ネットワーク監視の必要性を高める背景となっている。マルウェアの侵入や感染の拡大、データの改ざん・漏えいをいち早く検知して対応を行うのに役立つためだ。
こうした理由から、ネットワーク運用自体を事業とする通信事業者/サービスプロバイダーや、大規模ネットワークを運用する大手企業だけでなく、最近では中堅中小企業でもネットワーク監視ツールの需要が高まっている。SolarWinds社製の大規模ネットワーク向け監視ツール「SolarWinds NPM」から、中堅中小向けのPaessler社製「PRTG Network Monitor」まで、複数の製品を取り扱うジュピターテクノロジー 営業開発部営業4課 担当課長の鈴木文昭氏は「最近は小規模なお客様からの問い合わせも増えてきた。クラウドを使うためのネットワークの監視をしたい、顧客情報を管理するための環境を整えたいといった目的が多い」と話す。
ネットワーク監視ツールには、監視対象の種類や規模、機能の豊富さによってさまざまな製品があり、小規模ネットワークであれば、フリーソフトで事足りるケースもある。だが、そもそも中堅中小企業にはこれから広がっていく段階であり、商用版についても鈴木氏は「掘り起こせる市場はまだ相当ある」と語る。実際、同社の場合、大規模向けのSolarWinds製品よりも「ミドルレンジ向けのPRTGのほうが相対的に伸びている」という。
一方、通信事業者/SP 等の大規模向けでも、新たな課題やニーズに応えるための機能や新製品の開発が進んでいる。本稿では、前編で通信事業者/サービスプロバイダー等の大規模監視における最新トレンドを、次回の後編で中堅中小向け製品動向を見ていく。
通信事業者/サービスプロバイダーで進むOSSの統合非常に複雑な多層構造となっている通信事業者/サービスプロバイダーのネットワーク運用を支えるOSS(Operation Support System)では、ネットワークインフラの物理的な状態(機器の故障や障害発生)の監視と、その上で稼働するサービスの品質監視、機器のパフォーマンス監視の3つが中心だったが、最近では監視対象を広げて、ユーザーの体感品質を可視化・分析する方向へと高度化してきている。
国内外の通信事業者とともにOSS製品の開発を進めてきた日本ヒューレット・パッカード 通信・メディアソリューションズ統括本部 OSS担当営業部長の迫田健氏は次のように話す。
「ここ2~3年で急激に要望が高まっているのがユーザーエクスペリエンスの分析だ。アラーム監視と品質・パフォーマンスの可視化だけでなく、ユーザーが使う端末の性能や基地局の状態など多様なデータを集めて相関を分析する方向へと進んでいる」
同社では、収集した情報の相関関係を基にサービスへの影響や原因解析を支援する「HPE Unified Correlation Ana lyzer」や「HPE OSS Analytics」といった製品群でこのニーズに応えている。
ユーザーの体感品質を可視化・分析するという方向性は通信事業者に限らず、コンテンツ配信事業者等でもニーズが顕在化すると考えられる。監視対象範囲の拡大と分析技術の活用は、今後のトレンドとなりそうだ。
もう1つ注目されるのが、インフラ設備やサービスごとにサイロ化されたOSSの統合だ。
理想的には、個別運用されていた複数のOSSを1つのシステムに統合するのが望ましいが、それには多大なコストがかかる。そこでヒューレット・パッカードは、既存のOSSはそのまま使いながら、データのみ集約して統合的に監視できるようにするアプローチを進めている。「特定の加入者ごとに、契約しているサービスやその基盤となるインフラの状態を可視化できるようにする」(迫田氏)のだ。
これは、ネットワーク全体を監視・制御するネットワークオペレーションセンターにおける業務を効率化するために始まった取り組みだが、活用シーンはそれだけでなく、コールセンターにおける顧客対応の高度化にも役立てることが可能だ。複数のOSS製品と連携して統合ビューを提供する「HPE Unified OSS Console」を通してオペレータが、ユーザーIDを元にサービス品質や障害の状態、復旧状況等を見ることができるようになる。
通信事業者の法人部門がこの情報を活用してSLAの維持に役立てるといった用例も出てきているという。