AWSと本社・店舗をつなぐネットワークが直面した2つの課題
このようにAWSをITインフラとして全面的に採用しているあきんどスシローだが、本社や各店舗とAWSをつなぐネットワークはどうなっているのだろうか。言うまでもなく、クラウドはネットワーク越しにITインフラを活用するもの。ネットワークのパフォーマンスや安定性が、きわめて重要になる。
あきんどスシローでは最初、AWSとインターネットVPNで接続していた。
同社は本社や各店舗をつなぐ拠点間ネットワークを、KDDIのイントラネットサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch(WVS)」で構築している。各店舗のデータは、WVSを介して本社にいったん集まり、それから本社に設置されたVPNルーター経由でAWSに送られるという仕組みだった。
このため、情報システム部 担当課長の坂口豊氏によれば、次の課題があったという。
「本社に障害が起こると、本社だけではなく、すべての店舗でAWSと通信できなくなるという状況でした。当時は、電源設備の点検のための停電があると、AWSが全拠点から利用できないという状況になっていました」(坂口氏)。本社が“単一障害点”となっていたのである。
あきんどスシロー 情報システム部 担当課長 坂口豊氏 |
また、AWSとの通信すべてが本社に集中することもあり、ネットワークのパフォーマンス面にも課題を感じていたという。実際、40億件のデータによる検証時、AWSへのデータ転送には2日間を要しており、将来ネットワークがボトルネックになることは当初から予見されていた。
そこで2013年5月の本社移転を機に、あきんどスシローはインターネットVPNからAWS Direct Connectへ切り替えた。
あきんどスシローの新本社ビル |
AWS Direct Connectとは、インターネットを経由せずに、AWSと閉域網で接続できるサービスだ。ベストエフォートのインターネットとは違い、安定的なパフォーマンスを実現できること。そして、閉域網ならではのセキュリティの高さなどが、AWS Direct Connectのメリットである。
AWSの東京リージョンの場合、AWS Direct Connectにより閉域接続するための相互接続ポイントは、データセンター事業者であるエクイニクスの東京第2データセンター(TY2)に用意されており、このTY2からAWSに接続している。
AWS Direct Connectを利用するには、TY2にラックスペースを確保し、TY2と各拠点をつなぐ回線を引き込む必要があるが、ユーザー自身でこうした作業を行うのは大変だ。そこでAWS Direct Connectユーザーのほとんどは、通信事業者などが提供するサービスを活用している。
あきんどスシローの場合もそうだ。WVSとTY2間、そしてTY2からAWS間の接続を、KDDIがワンストップで提供している。
図表 あきんどスシローのネットワーク構成イメージ |
以前からWVSを使っていた同社にとって、AWS Direct ConnectについてもKDDIのサービスを採用するのは自然な流れと言えるが、選定時には他社からの提案も受けた。そのうえでKDDIを選択した理由の1つは、そのサポート力にあったという。
「KDDIはWANだけではなく、各店舗のルーターなど構内までワンストップでサポートしてくれています。また、『まだADSLの店舗のアクセス回線を短期間に光ファイバーに切り替えたい』とお願いしたことがあったのですが、このときも我々の厳しい要望にKDDIは真摯に対応してくれました」(田中氏)
AWSとつなぐネットワークを、AWS Direct Connect+WVSに切り替えたことで、各店舗は本社を介さずにWVSから直接AWSに接続できるようになった。このため、本社に障害が万一発生しても、店舗に影響が及ぶことはない。なお、AWS Direct Connectに障害が起こった場合は、インターネットVPNに迂回する設定になっている。
また、もう1つの課題であったネットワークパフォーマンスについても、本社にトラフィックが集中していたインターネットVPN時代と比べ、「高速になりました」と坂口氏は評価する。
田中氏は、クラウドを活用する一番のメリットは「スピードです」と語る。オンプレミスと違って、クラウドではハードウェアの運用保守やサイジングなどの手間が不要だ。このため情報システム部は「ITの側面から業務をどう改善していくか」に集中できる。それゆえ、スピード感をもって、ITによる業務改革を進められるのだ。
また、クラウドなら様々なチャレンジが低コストで行える。加えてあきんどスシローの場合、ネットワークをKDDIに任せ、さらに運用負荷を軽減しているのもポイントとなっている。
あきんどスシローの情報システム部のメンバーはわずか5名。AWSとこれを支えるネットワークを武器に、少数精鋭による先進IT活用はさらに進化していく。