野村総研の武居輝好氏は、企業によるIoTの活用事例には、3つの類型があるとしている。(1)製品・サービスの付加価値向上、(2)アフターサービスの充実、(3)オペレーションの改革の3つである。
前編「スーツケースのIoT化が生んだ付加価値とは?」では、Thermo Scientific社とAirbus社の事例を通して(1)製品・サービスの付加価値向上について見たが、今回は(2)アフターサービスの充実と(3)オペレーションの改革の先行事例を紹介する。
約3万台の大規模リコールをIoTで解決
自動車業界にとって、“リコール”は非常に頭の痛い問題だ。大規模なリコール対応には、販売店の人件費をはじめ、多額のコストが必要になる。また、顧客の側にも、「販売店にクルマを持っていき、1時間、2時間と拘束されるといった不便」(武居氏)を強いることになる。
こうしたリコールの悩みを、IoTを使って解決している企業がある。電気自動車(EV)のテスラモーターズだ。同社のEVは、3Gによりネットワーク化されているが、これをリコール対応にも活用しているのである。
「現在のクルマは、かなりの部分をソフトウェアで動かしている。このためリコール対応の際も、ソフトウェアの修正で直る場合が多い。そこでテスラモーターズでは、リコールが発生したとき、ソフトウェアアップデートで対応するサービスを行っている」という。
IoTでソフトウェアアップデートによるリコール対応を実現するテスラモーターズ |
例えば、2014年1月には、約3万台が対象の大規模リコールが発生した。「プラグを制御するソフトウェアの不具合で、放っておくと充電時に火が出るかもしれない、という大変危険な障害だったそうだ」
このときテスラモーターズは、どう対応したか。まずはクルマに搭載されている17インチディスプレイを使って、ユーザーへリコールの案内を通知。これに対して、ユーザーが「2日後の夜中の2時に直してほしい」などと入力すると、その時間に自宅のガレージなどでソフトウェアアップデートが自動実行され、リコール対応が完了するといった流れだ。販売店などにクルマを持ち込まなくてもいいため、ユーザーにも大きなメリットがある。
テスラモーターズではリコール対応だけではなく、サスペンションの細かなセッティング変更などにも、このソフトウェアアップデートの仕組みを活用している。もちろん物理的な問題には対応できないが、従来のアフターサポートの常識を覆すIoT活用の好例といえそうだ。