5G商用ネットワークで「AI-RAN」実証
一方、AIでネットワークを高度化する取り組みも進んでいる。同氏が強調したのは、エリクソンが行うAI-RANの成果が研究室の実験やシミュレーションではなく、商用ネットワークに基づくという点だ。
ソフトバンクの5G商用網で実施したのは、無線アクセス網(RAN)上でAIが推論処理を行い、電波状況に応じて最適化する「AIネイティブ・リンクアダプテーション」の実証だ。スペクトル効率が最大約25%、下りユーザースループットが最大約50%向上したという。国内ではほかにも、KDDIとAIによる上り最適化のフィールドトライアルに成功。NTTドコモには、大容量のRANコンピュートプラットフォームを提供している。

AI-RAN実装の状況とソフトバンクとの取り組み
AIとミッションクリティカルに共通する要件
こうした高度化の先に、エリクソンは何を見据えるのか。

エリクソン・ジャパン 代表取締役社長の安東宏昭氏
同じく代表取締役社長の安東宏昭氏(エリクソン・ジャパンは、共同社長制)は、モバイルネットワークが「高速通信の基盤から、公共安全や鉄道、ユーティリティ、防衛などを支えるミッションクリティカルな基盤へ進化する」と説明した。スライシングによる品質保証や高いセキュリティ、レジリエンスが求められ、そこから生まれるB2B/B2G収益が日本の5G強化と6Gへの移行を後押しするとの見方だ。
さらに、エリクソン 北東アジア ヴァイスプレジデント 兼 エコシステム開発総責任者のヨアキム・ソレリウス氏は、「AIに必要な性能、セキュリティ、レジリエンス、信頼性は、ミッションクリティカル通信の要件と同じ」だと指摘した。これら要件を満たすための5Gの進化は警察や消防、防衛といったミッションクリティカル用途への5G活用拡大を後押しすると同時に、5G/6Gを「AI時代のネットワーク」へと進化させるベースともなる。

エリクソン 北東アジア ヴァイスプレジデント 兼 エコシステム開発総責任者のヨアキム・ソレリウス氏
そうした先端性を保つには、巨額の研究開発投資が欠かせない。エリクソンは年間50億ドルをR&Dに投じている。警察や消防が単独で担える規模ではなく、5Gのようなデュアルユース技術への依存が強まっているという。
日本の部品で「欠けたピース」を埋める
こうした市場環境において、ソレリウス氏が強調したのが、「一社や一国で通信の技術スタック全体を構築することはできない」という点だ。エリクソンは、信頼できる技術スタックの実現を掲げて2026年2月に発足した「Trusted Tech Alliance」の設立メンバーでもあり、日本からはNTTとRapidusが名を連ねる。
なかでも同氏が重視するのが、スタックの最下層にある半導体等の部品だ(下図表)。あらゆる階層で使われるため、この層を担う企業は不可欠な存在になる。

Trusted Tech Allianceが実現を目指す技術スタックの階層図
例に挙げたのが、エリクソンのMassive MIMO無線機である。現在、40社を超える日本企業から部品を調達しているが、中には調達先が事実上1つのエコシステムに限られ、日本では手に入らない部品もあるという。こうした部品は警察・軍用の無線機や自動運転車のレーダーにも共通しており、日本にとって成長機会になるとソレリウス氏は強調した。
冒頭で述べた村田製作所、住友電工とのMoU(覚書)締結はその第一歩となる。

村田製作所、住友電工とのMoU(覚書)締結
エリクソンは両社とそれぞれ、ネットワーク性能の向上とエネルギー効率の改善に向けた共同での技術評価、知見の共有、概念実証などを進める。拠点となるのは2026年4月に開設した横浜R&Dセンターで、最大300名規模の研究開発体制を構築する予定だ。成果は次世代製品に直接反映させる方針で、さらに他の日本企業との連携も順次広げるという。
AIとミッションクリティカル用途の双方を支える基盤ネットワークで、日本の部品産業がどこまで役割を広げられるか。協業の行方を注視しておきたい。









