家電量販店などの店頭では、格安のSIMフリースマートフォンと低価格SIMという組み合わせが今春以降、来店客の注目を集めている。
2013年11月にSIMフリー版iPhoneが販売開始したのに続き、090/080番号で音声通話ができる機能の付いたSIMがMVNO 各社から相次いで発売されたことがきっかけとなり、日本でもSIMフリースマホは市民権を獲得しつつある。
通信キャリアのスマホはiPhoneやXperia、GALAXYなどグローバルブランドのハイエンドモデルが中心であるのに対し、SIMフリースマホは国内中堅メーカーや中国・台湾メーカーなど、日本の消費者にとってあまりなじみのないブランドがほとんどだ。
キャリア主導のビジネスモデルが定着している日本市場で、SIMフリースマホを手掛ける端末メーカーはどのような戦略を描いているのか。コヴィア、プラスワン・マーケティング、ファーウェイ・ジャパン、ASUSと国内外4社の取り組みを紹介する。
コヴィア――中国の量産体制で安価に提供、法人需要の取り込みを図る
通信機器メーカーのコヴィアは2013年4月、国内メーカーとしていち早くSIMフリースマホ「FleaPhone CP-D02」を発売した。
イオン専用SIMなどMVNOサービスがITリテラシーの高い層に人気を集めている状況から、「SIMフリースマホは一定のパイがあると考えた。2万円を切って提供できるタイミングをうかがっていた」と執行役員・営業統括本部長の山本直行氏は話す。
コヴィア 執行役員 営業統括本部長 山本直行氏 |
独自ブランドで1万9800円(税別)という価格設定を可能にしたのは、中国の量産体制の仕組みを利用しているからだ。「デザインハウス」と呼ばれるスマホの基本プラットフォームの設計を行う企業に設計を委託し、中国の工場で生産を行う。
他方、日本市場で展開するには、JATE/TELEC認証の取得やFOMAプラスエリア(800MHz)への対応など、日本独自の規格や仕様に合わせることが必要だ。それらの費用を含めると、どんなに原価を抑えても一定数以上を販売しなければ採算が合わない。「SIMフリースマホは、体力や技術力のないメーカーが生き残ることは難しい」と山本氏は言う。
FleaPhone CP-D02は家電量販店やAmazonで販売したが、音声機能付きSIMが発売前だったこともあり、販売台数は8000台程度にとどまった。当初はコンシューマーをターゲットにしていたが、「狙いは外れた」と見る。
FleaPhone CP-D02をAmazonから購入したのは全体の約6割で、MVNOやSIMフリーを十分に理解している人たちだ。
これに対し、家電量販店で購入する人の中には、MVNOとキャリアの違いすらわからない人もいる。しかも、SIMフリー端末のメーカーは家電量販店に販売スタッフを配置する余裕がなく、SIMフリースマホ目当ての来店客が、キャリアや販売代理店から派遣されている応援スタッフによってキャリアのコーナーに誘導されるケースが後を絶たない。
「SIMフリー端末をコンシューマーに安全・安心に提供できるような売り場環境がまだ整っていない」(山本氏)という。
「FleaPhone CP-D02」はコンシューマーだけでなく、法人向けの業務用端末としても活用されている |
病院のナースコールとの連携も
そうした中でも海外メーカーが次々と市場に参入しているが、コヴィアではあえてスペック競争を避けて独自路線を貫いている。「3Gで日本全国どこでもつながり、低価格で提供するという方針はぶれないようにしたい」と山本氏。新製品は、コンパクトな4インチサイズで9800円台(税別)を目指している。こうした方向性は、法人市場に販路を拡大しやすいとの狙いもある。
企業のスマホ導入は期待ほど進んでいないが、その主な要因は「利用料金の高さ」と「端末の高機能」にあるといわれる。
その点、利用料金が安く、機能が限定されたSIMフリースマホであれば、企業も安心して導入できる。実際、コヴィアの端末は、トラックの運行管理システムや業務用ハンディターミナルに活用されているという。
この9月には、福井大学医学部附属病院に納入した。同院ではPHSの代わりにスマホを使ったナースコールシステムを新たに導入、これにより入院患者の名前や部屋番号だけでなく、体の状態など細かい情報が画面に表示され、看護師は効率的に対応できるようになった。
コヴィアは家電量販店で端末を展開することでブランド力の向上を図りながら、こうした企業の受託開発を強化していきたいという。