1年で1700%のアクセス増
ここまで見てきたのは、AIエージェントがタスクを実行する際に発生させる通信全体である。その一部であるWebサイトへのHTTP/HTTPSリクエストは、アクセスを受ける側から見ると、ボットによるアクセスとして観測されることになる。Webサイト側からはAIエージェントの動きはどう見えているのか。
クラウドフレア・ジャパン Field CTO/CISOの乙部幸一朗氏によると、クラウドフレアのCDNが処理するHTTP/HTTPSリクエストのうち、約35%をボットによるアクセスが占めるという。HTMLコンテンツへのリクエストに限れば約57%に達し、人間によるアクセスを上回っているそうだ。

クラウドフレア・ジャパン Field CTO/CISO 乙部幸一朗氏
このボットのアクセスには、検索エンジンのクローラーやスクレーパーなど、以前から存在するものが多く含まれている。これに生成AIの登場後は、AIモデルの学習データを集めるクローラーや、回答生成時に情報を取得するフェッチャーが加わった。
アカマイ・テクノロジーズではAIボットのアクセスをWebサイトの種類別に分析しており、それによると48%と最多のアクセスを集めるのがECサイトだ。同社はECサイトを対象にAIボットの内訳を明らかにしている。2025年7~12月時点では、AIモデルの学習データを集める「AIトレーニングクローラー」が71.0%を占めた。「AIフェッチャー」が14.8%、「AI検索クローラー」が13.6%で、ユーザーの代理で行動するAIエージェントは0.2%にとどまった(図表2)。
図表2 ECサイトにアクセスするAIボットの種類 調査期間:2025年7月1日~12月31日

現在のAIボットによるWebアクセスは情報収集が中心であり、AIエージェントによるアクセスが本格化するのはこれからだ。アカマイ・テクノロジーズ エバンジェリスト シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャーの中西一博氏は、「AIボットはボットトラフィック全体のうち1%であり、まだ多いとは言えない。しかし、増加率は非常に大きく、今後の注意が必要だ」と指摘する。実際、アカマイが観測したAIボットのアクセス数は2023年7月から2025年7月までに約3.2倍に増加した。

アカマイ・テクノロジーズ エバンジェリスト シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャー 中西一博氏
さらに、クラウドフレアのCDNへのAIエージェント関連のHTTPリクエスト数は、2025年6月から2026年5月までの1年間で約1700%増加している。「AIエージェントのユーザーがまだ少ない現状でこの数字だ。AIエージェントの普及が進めば、トラフィックはさらに増えるだろう」と乙部氏は話す。
従来、ボットの識別は、悪性ボットの遮断が主目的だった。AIボットの種類が増えた現在は、通信量やコンテンツの利用状況を把握するうえでも、アクセスの主体と目的を見分ける必要性が高まっている。
AIが変えるWebの前提
AIによるアクセスの増加は、Webサイトの通信量を押し上げるだけではない。「コンテンツを公開すれば人間の訪問や収益につながる」というWebの前提も揺るがしている。
従来の検索エンジンも、クローラーでWebサイトの内容を取得してきたが、検索結果のリンクから、ユーザーがWebサイトを訪れることで、運営者は広告収入や有料購読、商品の購入などにつなげることができた。乙部氏は、コンテンツを取得される代わりにユーザーが送り返される「対価の対称性」が成り立っていたと説明する。クラウドフレアのデータでは、約10年前は2回のクロールに対して1人がWebサイトを訪れていたという。
生成AIでは、この関係が崩れつつある。AIサービスが取得した情報を回答文に組み込めば、ユーザーは元のWebページを開かなくても要点を知ることができる。クラウドフレアによれば、2025年時点で、グーグルによる18回のクロールに対してWebサイトへの訪問者は1人、OpenAIでは1500回に1人、アンソロピックに至っては6万回に1人にとどまっており、海外の主要ITメディアのなかには、トラフィックを9割以上減らしたところもあるという。Webサイト側はAIによるコンテンツ取得に伴う配信負荷を負いながら、訪問者や収益を失い始めている。
しかし、AIに参照されなければ、情報が人間の目に触れる機会そのものが減る。Webサイト運営者にとっては、人間にとって読みやすいページを作るだけでなく、AIが内容を正確に取得し、回答の中で引用できる形に整えることも新たな課題となる。
ただし、AIに参照されるだけでは訪問や収益の回復にはならない。情報提供の対価を得る手段を確立することが求められる。
AIエージェントの利用拡大は、ネットワークの設計・運用だけでなく、Webコンテンツの提供や収益化のあり方にも見直しを迫っている。
[月刊テレコミュニケーション 2026年9月号の記事を再構成]









