杞憂に終わったクラウドへの不安、オンプレミスよりもクラウドのほうが安いと実感
冒頭で紹介した通り、日清紡グループでは業務システムのクラウド化に本格的に取り組んでいる。その第一歩となったのは、2番目の柱である「重要データとバックアップデータの安全な保管先の選定と確保」だった。
2011年の終わりから、WVSの大容量バックボーンに直結したKDDIの仮想データセンターサービス「Virtualデータセンター」の中で提供されているクラウド型ファイルサーバーへと、重要データなどを移行し始めた。
「このサービスは東日本と西日本にデータセンターがあり、大規模災害時にもディザスタリカバリが実現できます。また、今まで社内で運用していたファイルサーバーより拡張性も優れていることから、Virtualデータセンターへ重要データを移行することにしました」(深川氏)
そして、Virtulデータセンターのファイルサーバーサービスを使って掴んだのは、「“クラウドは使える”という感触」(西村氏)だったという。そこで2012年には、Virtualデータセンターの仮想サーバーサービスを利用し、4番目の柱である「社内にあるサーバー室よりも、もっと安全なプライベートクラウド環境へのサーバー移設」がスタート。
その後、KDDIから新たなクラウド基盤サービス、KDDIクラウドプラットフォームサービスが登場したことから、現在は同サービスを利用している。
業務システムをクラウドへ移行するにあたって、渡辺博信氏が心配したのはパフォーマンスだったそうだ。「社内のサーバー室に置くのと比べ、サーバーのレスポンスはどうか。サーバー自体の性能はクラウドのほうが良かったとはいえ、実際のところはやってみないと分からない部分がありました」。しかし、心配は杞憂に終わる。「レスポンスは以前より向上しています」と渡辺氏は話す。
日清紡ホールディングス 事業支援センター 財経・情報室 情報システムグループ 担当課長 渡辺博信氏 |
また、深川氏は、設備を自前で持たずにクラウドを利用するメリットとして、運用負担の軽減も挙げる。「ハードウェアの保守期限の問題を考えなくてよかったり、ハードウェア障害への対応を任せられたり、運用面で副次的な効果が出ています」
「こうした運用コストなども考慮すると、『オンプレミスよりもクラウドのほうが安い』というのが現段階での実感です」と渡辺氏は語る。
ここまで見てきたように、日清紡グループのICTインフラは、KDDIの製品・サービスを中核に構築されている。その理由としては長年の信頼関係などもあるが、KDDIならネットワークからモバイル、クラウドまでをトータルで提供可能な点が、なかでも決め手となっているようだ。
「ネットワークと業務システムが一体化している現在のICT環境において、これらをワンストップで提供してもらえる点を非常に高く評価しています」と深川氏は言う。
災害に強いICTインフラの実現に一定の目途がついた今、深川氏らが次のチャレンジとして見据えるのは、“グローバル”だ。日清紡グループの従業員の半数以上はすでに海外。しかし現在はまだ、海外拠点もカバーしたグローバルなICTインフラは構築されていない。今後ますますグローバル化が進むなか、どのようなICTインフラを目指していくのか。SaaSの積極的な活用など、様々なプランを模索しているという。