AIロボティクス戦略の要点
――そうしたなか、日本政府もフィジカルAI関連の取り組みに本腰を入れ始めています。今年3月、原田先生が委員長を務める経済産業省のAIロボティクス戦略検討会議が「AIロボティクス戦略」の案をとりまとめ、AIロボティクスに関する関係府省連絡会議が同戦略に基づく主要政策パッケージを5月に打ち出しています。
原田 AIロボティクス戦略の根本には、人口減少を背景とした構造的な人手不足が深刻化するなか、「多用途AIロボットをあらゆる産業のあらゆる場面に導入していこう」という考えがあります。
そのうえで、どこから優先的に取り組むといいのか、その実装ロードマップをまとめたことが一番のポイントです。
――AIロボティクス戦略では、2030年までの「短期」、2030年頃以降の「中長期」に実装時期を区分(図表1)し、短期的に優先的に取り組む共通タスクとして、「点検(屋外・半屋外)」「点検(屋内)」「搬送(屋外・半屋外)」「搬送(屋内)」「清掃」「入出荷/ パレタイズ」「ハンドリング」「溶接・塗装・加工」の8つを選定しています。
原田 AIロボットによる作業の難易度には差があります。シールを貼ったり、包装紙で包んだりといったマニピュレーションの作業は大変難しいです。その一方、見廻りやモノを動かすといった作業は比較的容易で、難易度の低いところから徐々にAIロボットで自動化していこうという考え方です。
図表1 AIロボティクス活用の基本的方向性

――先行して開発・導入に取り組むタスクは、産業別に具体的に提示されています(図表2)。いきなり汎用ロボットではなく、まずは特定用途に絞ったAIロボットの実装を進めていくシナリオですか。
原田 最終的には汎用ロボットを目指しますが、一足飛びにそこへ行くのは難しいと私は思っています。
ボトルネックの1つはデータ収集の問題です。先ほど話した通り、今は人が実際にロボットを遠隔操作してデータを集めています。こうした方法では、ロボット基盤モデルがChatGPT等のLLMに匹敵するようなデータ量に到達するのに途方もない時間が必要で、「追い付くのは難しいだろう」と言う人もいます。
実際、ChatGPTは我々の質問に何でも答えてくれますが、ロボット基盤モデルはまだそうしたレベルに達していません。
図表2 短期的に取り組むタスクと先行開発・導入市場

――シミュレーションにより、フィジカルAIのデータ収集の高速化を図るアプローチも登場しています。
原田 走ったりボクシングしたり、二足歩行ロボットがいろいろな動作を行っている映像がよく話題になりますが、あのような動きが実現可能になったのはシミュレーションの力が大きいです。
ただ、歩行の動作は、平面やでこぼこした地面をシミュレーションすればいいので、比較的簡単なのです。それに対して、ギュッと掴んだり、やさしく触ったり、マニピュレーションとなると鋭い感覚が必要で、シミュレーションは容易ではありません。今後、状況は変わるかもしれませんが、マニピュレーションについては現状、遠隔操作でしかデータを収集することができず、それはシミュレーションの信頼度が高くないことが一因です。
――AIロボットが将来的に様々な用途で活躍するには、高度な手作業の能力が欠かせませんが、難易度が高いのですね。
原田 人においても、脳の4分の1から3分の1くらいの領域が、手作業のために使われています。










