製造、流通、農業、エネルギー分野など、様々な業界で期待が高まっているIoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)。このIoT/M2Mのトップランナーが集結したイベント「IoT/M2Mカンファレンス 2014」(主催:リックテレコム)が2014年10月3日、東京都内で開催された。
その基調講演を務めたのは、東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授の稲田修一氏。「IoT/M2M活用で実現するビジネス革新」と題して、IoT/M2Mが引き起こすパラダイムシフトや企業に求められる戦略などについて語った。
東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授 稲田修一氏。郵政省、総務省で、モバイル、ユビキタス、情報流通などICT分野の政策立案や技術開発を担当。大臣官房審議官を経て2012年に総務省を退官し、現在は東京大学でビッグデータと社会変革について研究する。著書に「ビッグデータがビジネスを変える」(2012年)、スマート化する放送(2014年)(共著)など |
データ活用による最適栽培でオランダの収穫量は日本の10倍に
「最初にショッキングなデータを持ってきた」
IoT/M2Mなどで収集したデータを上手に活用することで、どれほどの成果が上がるのか。それを示すため稲田氏は、日本とオランダの農家における単位面積当たりの収穫量を比較するところから講演をスタートさせた。
上のスライドの左側は、日蘭の2012年の野菜収穫量を対比したグラフ。実に10倍ほどの差が出ている。日本では露地栽培が比較的多いのに対し、オランダではハウス栽培がほとんどという点に留意する必要はあるが、驚くべき差が開いていることが見て取れるだろう。
こうした差は、長年にわたり生じたものだ。スライド右側のトマトの生産量の推移を見ると、1960年代頃にはまだそれほど大きな差はない。しかし、日本の単位面積当たり生産量がその後もあまり増えていないのに対し、オランダでは大きく向上していったことが分かる。
稲田氏はその理由について、日本では自然と勘による栽培が続いてきたが、オランダでは高機能ハウスによる生育環境の最適化に加えて、「データを活用して生育の最適条件を見つけて、最適条件のもとで栽培するというイノベーションをやってきた」と指摘。そのうえで、「今、IoT/M2Mを活用することで、最適条件が楽に見つけられるようになっている」と語った。
オランダの農業のケースは、データ活用によるイノベーションのあくまで一例に過ぎない。稲田氏は、IoT/M2Mによって従来取得できなかったデータが取れるようになり、医療や教育など様々な分野でイノベーションが起こり始めていると説明。「このイノベーションは、ゆっくりと起こっているので、あまり気付かないかもしれない。しかし10年後、20年後には、『パラダイムシフトが起こった』と実感できるだろう」とした。
日本企業の課題は「経営者が決断できないこと」
さらに稲田氏は、IoT/M2Mがもたらす変化はパラダイムそのものの変化であるため、現在の枠組みからその利活用について考えるのではなく、「未来世界の見通しから、イノベーションを考えることが必要」と説く。
しかし当然、これは容易なことではない。イノベーションを成功させるためには多くの試行錯誤が必要だが、そこで日本企業で課題となっているのが「経営者が決断できないこと」だという。
日本企業におけるIoT/M2Mの成功事例としてはコマツのKOMTRAXが有名だが、その成功要因の1つは、「社内に反対意見があったにもかかわらず、(当時の)坂根社長が『やれ』といったから」――。経営者がリーダーシップを持って取り組まず、またチャレンジによる失敗を許容する風土もないことが、海外と比べて日本のIoT/M2M活用が遅れている一因になっているという。
また、「何のためにIoT/M2Mを使うのか。目的が必要」とも稲田氏は話した。最初に目的があったうえで、それを実現するためにはどのようなデータが必要か、というところからIoT/M2Mのモデルを考える必要があるにもかかわらず、目的なしにIoT/M2Mのモデルを検討している日本企業が少なくないという。