タブレットを持った保守担当の技術者が上下水道施設内(以下、水道施設)の機器にタブレットのカメラを向けると、クラウドと通信し、画面に過去の保守履歴や取扱説明書などその機器に関する情報が表示される。技術者はそれを参照しながら保守作業を進める。
これは、水道施設の維持管理事業を担うメタウォーターが開発した「ウォータービジネスクラウド(WBC)」の活用例だ。従来は、現場に持ち込んだ紙の保守履歴台帳や取扱説明書を繰って必要な情報を探し出していたが、それに比べ、情報入手に要する時間を短縮し、保守作業の迅速化を後押ししている。
図表 ウォータービジネスクラウドの概念 |
WBCの仕組みを構築した目的について、メタウォーターでサービスソリューション事業本部WBCセンター長を務める上野隆史氏は、「水環境にかかわる自治体や民間企業が利用できるプラットフォームをつくり、そこにコンテンツやサービスをのせて上下水道事業(以下、水道事業)の事業価値を高めること」と話す。
水道設備の運転データや技術者のノウハウをWBCに集約し、それを水道事業を運営する自治体や水道設備の維持管理を請け負う企業が共用する仕組みをつくることによって、設備の延命化や人材不足の解消など、水道事業が直面している課題の解決に役立てる。
メタウォーター サービスソリューション事業本部 WBCセンター長 上野隆史氏 |
規模10倍の市場へ乗り出す
国内の上下水道をめぐる環境は厳しい。人口減によって水道事業の収入は減少傾向にあり、老朽化した設備を入れ替えることは難しくなっている。したがって、いま稼働している設備の延命化を図ることが水道事業にとって重要なテーマとなっている。
それには、設備の老朽度合いを把握し、劣化予測を行うことが必要だ。しかし、国土交通省のアンケート調査によると、下水道分野で「劣化予測を行っている」と回答した自治体はわずか16.2%に留まっている。水道インフラは危機的状況にある。
水道事業は人材不足という課題も抱える。熟練技術者が定年退職の時期を迎えているからだ。いまのところは退職しても保守点検の仕事を続ける人が多く質は維持されているが、それにも限りがある。熟練技術者が持つノウハウとナレッジを若手に伝承することも、水道というインフラを守るための要件となっている。
こうした状況のなか、メタウォーターは新たなビジネスモデルを打ち出し、事業を拡大している。従来から取り組んできた水質計などの機器の提供や、機器をまとめて浄水場等のプラントとして建設するEPC(Engineering、Procurement、Construction、設計/ 調達/ 建設)事業に加えて、自治体が行ってきた水道施設の保守点検・維持管理サービスを受託し、自治体に代わって水道施設を運営するサービス事業を推進する。
水道関連の事業規模を世界的に見ると、機器提供事業が1兆円、EPC事業が10兆円であるのに対し、運営サービス事業は約10倍の100兆円と見られている。「EPC事業にプラスして保守点検・維持管理サービス事業を伸ばしたい」と上野氏は話す。