航空会社に勤務する運航乗務員(パイロット)は、多くのマニュアル類を持ち歩いている。乗務する機種の操縦や安全に関するマニュアルに加えて、航空法や利用する空港ごとの「チャート」も、必要に応じて確認しなければならないからだ。運航乗務員が大きなバッグを持ち歩いているのは、ほとんどがこのマニュアル類を携行するためであり、その重量は軽く10キロを超えるという。
こうしたマニュアル類は、その量や重さだけではなく、頻繁に更新されるのも特徴である。
「航空法の改定時はもちろんですが、空港設備、飛行経路に関する変更等、最低でも1カ月に1回以上は更新されます」とSpring Japan 運航部 運航乗員課長 機長の竹内正樹氏は説明する。
竹内氏によれば、マニュアル類は法律で認可された企業が各航空会社向けに作成しているそうだが、その更新作業については「ほとんどの航空会社で、運航乗務員自身が行なっているのが現状」だという。
マニュアル類を紙で管理する多くの航空会社では、内容が変更されるたびに改定部分を地上スタッフが運航乗務員に配布し、各運航乗務員が自分で差し替える。印刷代や差し替えにかかる時間などを考えると、Spring Japanのような運航乗務員数十名の規模で、更新コストは毎月数十万円になるという。
しかも、課題はコストだけではない。
「マニュアル類の差し替え作業は、運航乗務員個人の責任の元に行われるのが一般的です。必要な書類が揃っていなければ法令違反となるため、ミスがないよう細心の注意を払って作業しなければなりません。運航乗務員は本来、運航業務にのみ集中したいところですが、多くの航空会社の運航乗務員がいまだこうした事務作業の負担から、なかなか解放されずにいます」(竹内氏)
Spring Japan 運航部 運航乗員課長 機長 竹内正樹氏 |
そこで導入したのが、iPadだった。いわゆるLCC(格安航空会社)であるSpring Japanは、顧客の利便性や安全性に関わらない部分において、最大限の努力を持ってコストダウンに取り組んでいる。その一環として、日本法人設立当初から現場の運航乗務員にiPadを配布。iPadでマニュアル類の閲覧・管理を行うことで、これらの課題を解決したのである。
多様なサービスを1つの窓口で対応可能なKDDIからiPadを導入
タブレット端末はいくつもあるが、その中からiPadを選んだ理由はいくつかあった。
その1つは、法規制に関するものだ。航行中に操縦室において電子的に表示する機器を使用するためにはElectronic Flight Bag(EFB)※1の実施承認を受けなければならない。先行する米国では、当局よりEFBの実施承認を受けている航空会社が存在する。iPadはその中でも、早期に承認された機器の1つだった。
※1:Electronic Flight Bag(EFB)とは、従来は紙媒体による資料(例えば、飛行規程や航空図)や航空運送事業者の運航管理業務により航空機乗組員に提供されてきたデータ(例えば、飛行性能計算)を操縦室において電子的に表示する機器であり、使用には国土交通大臣の承認が必要で、日本においてもそのEFB導入の機運は高まりつつある。
「日本でも同様の措置が取られる可能性は高く、その際に許可される端末としてiPadが選ばれる確率は他国の実績から見ても高いと考えました。法律に従って業務に当たらなければならない私たちにとっては、これは大きなポイントでした」とSpring Japan 運航部 運航サポート課の松井裕二郎氏は語る。
Spring Japan 運航部 運航サポート課 松井裕二郎氏 |
操作性の面でのアドバンテージも、見逃せない。運航乗務員の中にはiPhoneユーザーも多く、その延長線上で扱えるiPadは他のタブレットに比べて親しみやすい。短時間で必要な情報を引き出せる操作性の良さは欠かせないものだった。
また、iPadを提供するベンダーはいくつかあるが、Spring Japanが選んだのはKDDIである。ソリューション提案力に魅力を感じたのが理由だという。
「iPadとともにドキュメント管理ソリューションの導入を提案されました。ハードウェアの提供だけではなく、私たちがやりたいことを実現する手法をトータルに考えてくれたことが嬉しかったですね」(松井氏)
KDDIが薦めたのは、富士ソフトのドキュメント管理ソリューション「moreNOTE」だ。管理者がサーバーにドキュメントを登録し、それをiPadユーザーが閲覧する仕組みで、事前に同期しておけばオフラインでもドキュメントを閲覧することもできる。
「KDDIにはネットワークやコールセンター業務でもお世話になっているので、信頼関係もありました。1人の営業担当者がすべてのサービスの窓口になってくれているので、やりとりがしやすくて助かります」(松井氏)