「農業M2Mの目的は可視化ではない」――IoTで農作業の自動化に挑む

「いかに作業を省力化するか」――。日本農業の課題に挑むルートレック・ネットワークスはM2Mとクラウドで、土壌の状態をセンサーで把握して水と肥料を自動供給する仕組みを実現した。

重荷にならない農業クラウドを

これと並行して、M2Mの適用領域の開拓にも取り組んだ。その1つが農業分野だ。

きっかけとなったのは、総務省の「ICTを利活用した食の安心安全構築事業」。この事業の目的は、低農薬・無農薬による農業に取り組んでいる農家の支援。銀座のビルの屋上でミツバチを飼っているNPO法人の銀座ミツバチプロジェクトが総務省から事業を受託して実施した。

ルートレック・ネットワークスが栃木県や岡山県の農家の田畑に土壌センサーを埋め込み、土壌の温度、水分量、土壌中の肥料の濃度を計測してクラウドに送る仕組みを開発した。

その過程において、佐々木氏は2年間にわたって農家と話を重ね、農家が抱える課題をICTで解決しようとの思いを抱いたという。

同社が農業クラウドの対象としたのはICTの活用が有効なハウス栽培だ。ハウス栽培には水耕栽培と土耕栽培がある。水耕栽培の典型は大手企業が手がける植物工場であり、佐々木氏はもう一方の土耕栽培に着目した。対象としたのは10~50アールの中級規模ハウス栽培農家だ。

前述のように、農業クラウドに参入した多くの企業が取り組んだのは生育環境の可視化だ。だが、それだけでは農家の問題は解決できない。

生育環境の可視化は農業クラウドの基本だ。ICTに関心をもち、データを基にして適切な生育栽培法を自分で考えて実践しようと考える農家にとって、生育環境の可視化は有効な武器には違いない。

だが、一方で、可視化を重荷と感じる農家もいるという。水分や肥料が少ないといったデータがクラウドから手元のスマートフォンに送られてくれば、対応することが求められる。それが重荷になるのだ。農業クラウドの利用が「仕事が増えたことと同じという状況をもたらしてしまう」のだという。

生育環境の可視化は手段であり目的ではない。農家が願っているのは農作業を省力化し、効率化することなのだ。

それを実現するために佐々木氏は、培養液土耕栽培というイスラエルで開発された技術を農業クラウドのべースにした。培養液土耕栽培とは、肥料を水に溶かした培養液をハウス内の土壌にチューブで浸透させる栽培法だ。日本ではあまり普及していないが、従来型のハウス栽培に比べて収穫量が平均20%向上するという。

従来の培養液土耕栽培は培養液の供給をタイマーで制御する。その方法では、気象条件や土壌・生育状態を見ながらタイマーの設定を頻繁に変更する作業が必要だ。佐々木氏は、クラウドを活用して培養液供給を自動化しようと考えた。

培養液の供給量や供給タイミングをクラウド上のコンピュータが的確に実行するためには、気温や土壌など生育環境と作物の生育状態に関するアルゴリズムを確立することが必要になる。

そこで、明治大学黒川農場(神奈川県川崎市)との産学連携によってアルゴリズムの開発に取り組んだ。そうして出来上がったのが、ZeRoというM2Mプラットフォームの上にハウス内の土壌に肥料を水に溶かし込んだ培養液を自動供給するZeRo.agriだ。

月刊テレコミュニケーション2014年7月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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