AIで20年ぶりの逆転現象
2つめに、セキュリティとデータ主権の観点からも、AI処理のエッジへの移行が求められている。
機密情報や個人のプライバシーに関する情報をガバナンスの及ばない外部へ渡すことに懸念を持つ企業は多い。シスコ クラウド・AIインフラストラクチャ事業 AI事業戦略担当部長の山崎大輔氏によれば、「医療、金融、公共機関などでは、個人情報や機密性の高いデータを外部に出したくないという強い要望がある」。

シスコシステムズ クラウド・AIインフラストラクチャ事業 AI 事業戦略担当部長 山崎大輔氏
その対策として同氏は、「AI処理のインフラを手元のオンプレミスエッジに引き寄せること」を提案する。ガバナンスが効く範囲内にデータをとどめ置きながらAI推論を活用できるようになる。AIを活用するユーザー側でこうしたニーズが高まっているのを受けて、AIサービスを提供する事業者でも「クラウドで開発したソリューションをそのままクラウドサービス化するのではなく、オンプレミスで動くアプリケーションとして展開しようとする動きが増加している」という。
データ主権を重視する観点から、モバイルネットワークへのデータ転送すら避ける企業もあるという。SPエッジだけでなく、企業が自前で構築・運用するオンプレミスエッジの重要性も高まっていくだろう。
このように、AI推論やAIエージェントの活用が広がるとともに、2000年代後半からの集中型クラウド一辺倒から、エッジ・オンプレミスを含むハイブリッド構成へ重心がシフトする可能性がある。AI開発は安価な開発環境であるクラウドでスタートしたが、エンドユーザーがAIを運用するフェーズに達したところで、コストや機密性の理由からオンプレミスでの展開を希望するケースが増えてくる。
オンプレエッジの鍵は「柔軟性」
では、AIを活用しようとするユーザー企業がオンプレミスエッジを構築・運用する際に留意すべき点は何か。
堀田氏が強調するのは「柔軟なハードウェア構成」と「運用の簡素化」だ。
ひと口にAIインフラと言っても、用途によって必要な処理性能は様々だ。エッジでは、供給電力や設置スペースの都合で、DCで用いられるようなGPUサーバーが使えない環境も多いだろう。各拠点のユースケースに最適なエッジ環境を構築するには、高価なハイエンドGPUだけでなく、より手頃な中堅GPUや、推論処理に十分な性能を持つCPUベースのインフラ構成も選択可能にする必要がある。
実際、「工場での画像処理・判定などではCPUのみのケースも多い」と同氏は話す。シエナの今井氏も「学習中心のAIワークロード向けのインフラはCPUとGPUの比率が1:8だったが、複数のAI同士が協調動作するエージェンティックAIでは、1:1.5程度まで近づくとの予測もある」と、GPU一辺倒だったAI学習用インフラとは状況が異なることを指摘する。
また、ストレージやネットワーク機器も含めた省スペース化も求められるし、店舗や工場のように多拠点に分散配置されたエッジ機器を、エンジニアを派遣することなく効率的に設定・管理する仕組みも欠かせない。
こうしたオンプレミスエッジ特有の課題に対して、シスコは「Cisco Unified Edge」で解決策を示している。これは、3RUの奥行きが短い(約45. 7cm)シャーシに5つのスロットがあり、複数種のコンピューティングノードやストレージ、ネットワーク機能を備えたブレードを挿入して、用途に合わせてハードウェア構成を選べるソリューションだ。コンピューティングについては、インテル製CPUやエヌビディア製GPU等を搭載可能で、外部ネットワークとの接続まで1筐体でエッジAI基盤に必要な機能をすべて賄える。
さらに、導入・運用の負荷を軽減するため、スマートフォンアプリで一括設定・管理できる仕組みも提供する。
そして、もう1つオンプレミスエッジの活用において欠かせないのが、セキュリティだ。
AIは人間可読のプロンプトとレスポンスでやり取りされるため、内容の改ざんやプロンプトインジェクション等のリスクが構造的に高い。高度なAIモデルをAPIとして提供するGPUクラウド等とエッジを連携させて使うケース(図表3)が今後増えると予想されるが、エッジ側には、クラウド上のAIと安全に接続するゲートウェイセキュリティが必須となる。
図表3 ソブリン対応による環境差別化

今後、AI活用範囲の広がりとともに、オンプレミスエッジ構築のニーズが高まることは間違いない。ローカル環境でもAIを安定的に活用できるよう、広帯域かつ低遅延・高信頼な通信が可能な光伝送技術がエッジ領域でも重宝される時代が来る可能性も高い。それに備えて、現在はDC間接続がメインの光伝送技術の進化にも注視しておきたい。
[月刊テレコミュニケーション 2026年5月号の記事を再構成]











