<連載>AIインフラの新潮流ソブリンAIを徹底解説 フィジカルAIの本格普及を下支えする

日本でもソブリンAIの取り組みが加速し始めた。政府がAI基本計画を閣議決定し、1兆パラメーター級の国産モデルの開発も現実味を帯びてきている。こうした流れは、フィジカルAIの本格普及を後押しするはずだ。

国内でもAI基本計画が策定

日本国内では、昨年12月に「人工知能基本計画(AI基本計画)」が閣議決定され、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すという野心的な目標が明確化された。

AI基本計画では、①AI利活用の加速的推進(AIを使う)、②AI開発力の戦略的強化(AIを創る)、③AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める)、④AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する)の4つを基本方針として掲げている(図表3)。

図表3 AI基本計画(骨子)の4つの基本方針図表3 AI 基本計画(骨子)の4つの基本方針

①については、“先ず隗より始めよ”の考えのもと、政府・自治体におけるAIの徹底活用を進める。その一例として、デジタル庁は今年5月より、全府省庁の約18万人の政府職員を対象に、ガバメントAI「源内」を試験導入する。源内の基盤となるLLMには、NTTの「tsuzumi 2」、ソフトバンク子会社のSB Intuitionsが開発する「Sarashina2 mini」など、計7つのLLMが採択された。

こうした動きと並行して、医療・教育・農業など幅広い分野におけるAIの社会実装や、中小企業のAI活用を支援する施策なども検討されている。ただ、一般企業での生成AIの利活用をさらに広げていくためには、「AIを単なるサポートツールとして使うのではなく、AIで業務を代替しつつ、人材をより創造的な仕事へと再配置し、企業の成長につなげていくような劇的な変革が必要」だと藤吉氏は提言する。

現時点でこうした取り組みは限られているため、通信事業者やICTベンダーが自社で開発したLLMを社内に先行導入する「クライアントゼロ」を通じ、具体的な活用事例やユースケースを提示していくことも重要だろう。

1兆パラメーター級のLLM開発へ

AI基本計画の②では、日本の文化・習慣等を踏まえた信頼性の高いAI開発・評価などを支援する。

その具体策の1つとして、経済産業省は高信頼かつ大規模な国産LLMの開発に向け、5 年間で1兆円規模の支援を行う。これを受け、ソフトバンクやNEC、ソニーら8社が出資する新会社が設立され、1兆パラメーター級のLLMの開発を進める計画だ。開発したLLMは日本企業に広く提供し、各社が用途に合わせて活用できるようにするという。

ただ、「汎用型のLLMでは海外製に対する競争力を確保しにくく、実際の業務で活用が進むとは限らない」と田邉氏は指摘する。ここでカギを握るのが、特定の業界や業務に最適化された「バーティカルAI(特化型AI)」だ。Preferred Networks(PFN)が金融業界向けモデル「PLaMo-Fin-Prime」などを商用化しているが、今後は自治体や教育、医療といった幅広い領域へバーティカルAIを展開していくことも重要になる。

昨年7月には、経済産業省やNEDO主導のもと、AI開発事業者を支援する国家プロジェクト「GENIAC」第3期がスタート。自動運転や創薬など、様々な用途に特化したLLMの開発に取り組む計24社が採択され、バーティカルAIの裾野を広げる取り組みとしても期待が高まる。

もちろん、国産LLMの開発・運用を本格的に進めていくうえでは、機密データを安全に扱い、国内で完結して運用できるセキュアなAIインフラの整備が欠かせない。AI基本計画の②でも、AI-DCの整備やAIの研究開発に必要な計算資源の確保などが掲げられている。

こうした取り組みと歩調を合わせるように、民間企業による動きも進んでいる。米マイクロソフトは今年4月、2026~2029年にかけて日本に100億ドル(約1兆6000億円)を投資する計画を発表。AIインフラやサイバーセキュリティ、人材育成などに充てる。

ソフトバンクやさくらインターネットとは、Microsoft Azureからアクセス可能なAI計算基盤を整備する。これにより、データ主権を確保した環境下で、Microsoft AzureのAIツール群を活用しながら、AIモデルの構築・運用などを行えるという。

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