中小事業所向けの電話システムとして、長年にわたり活躍し続けているビジネスホン。ブロードバンドの普及や移動体通信の拡大など、ネットワークをめぐる状況が大きく変革していくなか、ビジネスホンも進化してきた。
NTT東日本の宇津木健氏はその“ターニングポイント”を、FTTHが急速に普及し始め、さらに携帯電話が固定電話の加入数を逆転した1999~2000年に置く。同氏はまず、NTT東日本のビジネスホン「αシリーズ」がこのターニングポイント以降、どのように変遷してきたのかを解説した。
NTT東日本のビジネスホンαシリーズに見るビジネスホンの機能強化の歴史と新たな潮流 |
外線機能については、2002年ごろから050やひかり電話などのIP電話への対応がスタートした。「拠点間が無料になったり、通話料が安くなったり、といったメリットからIP電話は伸びていった」
IP化のトレンドは、内線側にもやってくる。現在に至っても伸び悩んではいるが、オフィス内も含めた“フルIP化”を実現するIP多機能電話機が2004年ごろに登場する。
内線側の変化としては、“無線化”も見逃せない。ターニングポイント以前からPHS(自営標準)が企業に普及し始め、さらにその後、Wi-Fi内線電話機が登場。NTT東日本のビジネスホンも対応を進めた。
以上がブロードバンドおよび移動体通信が普及して以降のビジネスホンの機能強化の概略だが、最近またビジネスホンに大きな影響を与える新たな動きが出ている。スマートフォンの普及である。
こうしたなか、宇津木氏は今、次の2つを「ビジネスホンにおける新たな潮流」と捉えているという。1つは「BYODによる連携」、もう1つは「内線ブロードバンド化」である。そしてNTT東日本では現在、この2つの潮流に対応すべく、ビジネスホンの開発を行っている。
東日本電信電話 ビジネス開発本部 第二部門 情報機器開発担当 宇津木健氏。右下にあるのは、後ほど登場する「メディアIP電話機」だ |
高音質の音声BYODを実現
私物端末を業務に活用するBYODが、急速に拡大しつつある。そのため、「今後はBYODについて、私たちビジネスホンの世界も見ていく必要がある」が、一方で音声のBYODについては重大な課題もあるという。それは音声品質だ。
定額のデータ通信料さえ支払えば、あとは無料で通話できるLINEなどのVoIPアプリはコンシューマを中心に広く普及している。こうしたVoIPアプリをビジネスホンと連携させれば、オフィスとスマートフォン間の通話を手軽に内線を無料化できる。しかし、ビジネス用途で活用するのに十分な音声品質を担保するのは容易ではない。
スマートフォン連携の課題 |
通信事業者の提供するIP電話サービスと違って、こうしたVoIPアプリはQoS制御されないモバイル網やインターネットを経由するため、安定的な音声品質を確保することが難しいからだ。「私どもの研究所で測定した結果だが、500~2000msもパケットが届かない、突発的な長期ゆらぎが非常に多い」という。
そこでNTT東日本が同社のビジネスホン用に提供するのが、高音質を実現するための「モバイル内線アダプタ」とスマートフォン専用アプリ「VoIPクライアントソリューション」である。
音声品質の低下をもたらすパケットロスやゆらぎ、遅延などの要因を改善するため、ビジネスホンとネットワークの間に中継装置となるアダプタを設置。VPNを使わず、高圧縮/暗号化によってパケットを軽量化するとともに、モバイル内線アダプタ内で音声パケットの順序誤り訂正やゆらぎの吸収を行うことで、高音質を可能にしているという。クライアントアプリの対応OSは、AndroidとiOS。現在、Androidは50機種(NTTドコモ)、iOSは10機種(NTTドコモ、au、ソフトバンク)に対応しているという。
高音質を実現する仕組み |
導入事例も2つ紹介された。1社目は、社員数約50名の建設業のケース。同社では現場業務の多い社員に対し、個人携帯利用費として月17万5000円(1人当たり5000円)を支払っていた。それモバイル内線アダプタなどの導入により、スマートフォンと事務所間の内線通話が無料になったほか、外線についてもビジネスホン経由で安価なひかり電話でかけられるようになり、通信料を大幅に削減できたという。また、スマートフォンからも事務所の0AB~J番号でかけられる点、スマートフォンと内線番号で通話できる点も喜ばれているそうだ。
2社目は、社員数約10名の製造業のケースである。社長はドコモ、専務はauのiPhoneを持っているが、異なるキャリアのスマートフォン間でも無料で内線通話できる点が導入の決め手になった。