従来型RANと遜色ない性能
エヌビディアは現在、世界で約20の通信事業者とAI-RANの商用化を目指している。なかでも最近、重要な成果を挙げたのが次の3者だ(図表3)。
図表3 通信事業者とのAI-RAN実証実験
T-Mobileは、3.7GHz帯のRAN処理と動画配信生成等のAIアプリを同一のGPUプラットフォーム上で同時に実行する実証に成功した。インドネシアのIOHは、東南アジアで初めてAI-RANによる5G通話のデモを実施。犬型ロボットの遠隔操作にも成功しており、商用化を前提としたフィールドトライアルへ移行している。この2者は、エヌビディアが10億ドルを出資したノキアのRANソフトウェアを利用している。
日本のソフトバンクもノキアやエリクソンと協力して、GPUリソースをRAN処理と外部AIタスクに動的に配分する「AITRASオーケストレーター」を開発しているほか、産業用ロボットを手掛ける安川電機とフィジカルAIの実装に取り組むが、アトリ氏が「AI-RAN商用化への重要な技術的節目」と語るのは次の成果だ。GPU上で稼働するソフトウェアのみの環境で16レイヤーMassive MIMOの屋外実証に成功した。専用ASICによる従来型RANと遜色ない性能を、実環境下で確認した意義は大きいという。
GPUかCPUか専用ASICか
AI-RANの実装形態については、様々な方向性が見えてきている。ノキアとエリクソンを比べても、AIチップセットやハードウェア構成に大きな違いがある。
ノキアは「GPUで動作させる方向へ舵を切った」(小久保氏)。具体的には、汎用サーバー上でGPUを使って仮想RAN(vRAN)を動作させる形態と、従来の専用装置「AirScale」にGPUカードを挿入する形態の2つのアプローチがある。後者の場合、従来のRAN処理専用チップをGPUに置き換えることで、既存インフラを活かしながらAI-RANへ移行できるという。
エリクソンはより柔軟な立場を採る。「必ずしもすべてをGPUで実装する必要はない」と話すのは、エリクソン・ジャパン ソフトバンク事業統括本部 新規ビジネス推進本部長の滝沢耕介氏。「データセンターにはGPUが適しているが、基地局サイトでは電力供給や設置スペースの制約から、専用ハードウェアのほうが効率的な場合もある」

エリクソン・ジャパン ソフトバンク事業統括本部 新規ビジネス推進本部長の滝沢耕介氏
エリクソンのAI-RAN実装戦略の軸は、「GPUやCPU、専用ASICといった異なるプラットフォーム間で動作する」ソフトウェア・ポータビリティの実現だ。これにより、既存インフラからのマイグレーションもしやすくなる。図表4のように、エリクソン専用ハードウェアに加えてインテル、AMD、arm、エヌビディアへの対応を進めており、インテルに関してはすでに商用段階にある。
図表4 ポータブルRANソフトウェアにより、演算ダイバーシティを実現
エヌビディアも商用化に向けて、ハードウェアを充実させている。
これまでの実証段階ではデータセンター向けのGPUを用いていたが、「基地局の実情に合わせて、性能を落とさずに消費電力を下げたプラットフォームが必要という声が多く、それに応えるリファレンスデザインを発表した」(アトリ氏)。NVIDIA ARC-Pro(Aerial RAN Computer Pro)だ。Blackwell RTX PRO GPUを搭載し、電力・スペース、動作温度など基地局の環境に最適化した“AI-RAN専用機”である。複数のサーバーベンダーがリリースを予定している。












