昨年のiPhone 5s/5cの導入を機に、NTTドコモの販売実績が回復基調に入ってきている。「巻き返し」とまではいかないが、流れは明らかに変わってきた。
iPhoneという強力な商材がラインナップに加わったことと、もう1つ見逃せないのが、iPhoneの導入に合わせてドコモがLTEインフラの大幅な強化を図ってきていることだ。取り組みは多岐にわたるが、とりわけ大きなインパクトがあったのが、iPhone 5s/5cの発売と同時にスタートした1.7GHz帯での下り最大150Mbpsの高速データ通信の提供である。
1.7GHz帯をすべてLTEに切り替え、圧倒的な通信速度
下り最大150Mbpsは現行のLTEシステムの最高スペックだが、これを提供するには3G携帯電話(W-CDMA/HSPA)の5MHz幅(実際には送信、受信用の1組の電波が使われるので、以下5MHz×2という形で表記する)の電波4波分、20MHz×2もの広い周波数幅が必要となるため、提供できている事業者は世界でもまだ少ない。
ドコモは3Gのトラフィック対策に使ってきた1.7GHz帯で20MHz×2を東名阪地区限定で割り当てられており、今回この帯域をすべてLTEに切り替えることで150Mbpsの高速サービスを実現したのだ。
もっともiPhone 5s/5cは、端末側の最大通信速度が100Mbpsまでとなっており、実際に「150Mbps」のサービスが利用可能になったのは、150Mbps対応のAndroidスマートフォンが発売された10月になった。
ドコモはこのサービスを都心部から展開しており、12月末時点で東京の山手線全駅の周辺や六本木、名古屋市の中心部、大阪の環状線の駅周辺などで利用できる。トラフィックの集中するこれらの地区はLTEでも速度が出にくいが、ドコモのiPhone 5s/5cは1.7GHz対応機のユーザーが少ないこともあり、50Mbpsを超える劇的なスループットを実現。雑誌やWebメディアにも取り上げられた。
ドコモがこうしたアグレッシブなサービスを実現できた理由の1つが、2013年9月末時点でドコモユーザーの4分の1強、1640万がすでにLTEに移行しており、1.7GHz帯の20MHz×2をまるごとLTEに切り替えても、3Gユーザーの通信品質に大きな影響を及ぼさない状況になっていたことだ。
ドコモによると、同社が「2トップ戦略」などでLTEスマホの拡販を進めてきたのには、3GユーザーのLTE移行を進めて3G用帯域を空けて、LTEで本格的に戦える環境を作る狙いもあったという。
1本のアンテナエレメントで現行の4帯域と2015年から利用が可能になる700MHz帯に対応するマルチバンド基地局アンテナ。都市部で順次導入が進められている |
LTEへのユーザーの移行の進展により、1.7GHz帯以外の帯域でもLTE展開が加速している。ドコモは主力バンドとして展開する2GHz帯でも、LTEの帯域幅を当初の5MHz×2、1車線分から順次2車線分の10MHz×2に拡大、下り最大37.5Mbpsの最大通信速度を75Mbpsに向上させている。ドコモは、LTEの通信環境を大幅に底上げした上でiPhoneの導入に踏み切ったといえる。