BYODの可能性を広げるモバイル仮想化――私用OSと業務OSが1台のスマートデバイスの中に共存

1台のスマートデバイス内に、複数の異なるOSを稼働させる「モバイル仮想化」技術が進化している。私的利用と業務利用を完全に切り分けられ、管理の効率化も実現。BYODの用途が大きく広がる。

「BYODには、一部の業務で使うもの、制限された環境で行うものというイメージがある。だが、それでは、ユーザーの使いたい用途と、実際に使える用途に大きなギャップが出る。もっと積極的に活用する方向へとBYODを進めるために、仮想化ソリューションを開発した」

こう語るのは、NECの第二キャリアサービス事業部でプロジェクトマネージャーを務める根津聡氏だ。同社は2012年11月に、スマートデバイス仮想化ソリューション「NEC Cloud Smartphone」をリリースした。

iPhone/iPadやAndroid端末に搭載された本来のOSとは別に、業務用の“仮想スマートフォン”を稼働させる技術を使い、1台の端末でプライベート利用と業務利用を完全に切り分けるソリューションの提供を始めた。

スマホ上で仮想スマホを動かす

モバイルデバイスの仮想化は、BYODを推進するための新技術として注目を集めている。単一のOS上に私用と業務用のアプリ/データを混在させることは、利便性の観点からも、情報漏えい対策上も問題が多い。OSそのものを仮想化し、1つの端末内で私用と業務用のOSを別々に運用することができれば、こうした課題を解決できる。業務用のOSと、その上で使用されるアプリ/データのみを遠隔から制御できれば、プライベート領域にはまったく干渉することなく、業務領域を管理できるのだ。

BYODへの関心が高まるに伴い、このモバイル仮想化ソリューションを提供するベンダーが現れてきている。国内では、ソフトバンクテレコムが米VMwareの仮想化ソフトウェア「VMware Horizon Mobile」を使ったBYODトライアルサービスを2012年11月に開始した。1台のスマートフォン内に、通常の物理的なスマートフォン環境とは別の仮想的な環境を作り出し、インターネットアクセス用と企業内システムアクセス用に使い分けられるようにするものだ。ただし、仮想OSを稼働させる仕組みを端末に組み込む必要があるため、「Motorola RAZR M SoftBank 201M」1機種でのトライアルに留まっている。

それに対し、iPhone/iPad、Android端末と多様な端末に対応し、すでに商用化しているのがNEC Cloud Smartphoneだ。仮想OSを端末内に組み込むのではなく、クラウド上のサーバー内で“仮想スマートフォン”を動かし、それをネットワーク経由で利用するものだ。

こう説明するとわかりにくいが、要は、仮想PC型のシンクライアントシステムの“スマートフォン版”である。図表1のように、仮想スマートフォン(Android OS/アプリ/データ)をサーバー内で稼働させ、これを遠隔から操作し、画面のみを手元の端末に転送する。

図表1 「NEC Cloud Smartphone」の利用イメージ
「NEC Cloud Smartphone」の利用イメージ

遠隔操作する専用アプリをインストールするだけで利用できるため、幅広い機種に対応できるのが特徴だ。仮想スマートフォンはAndroid OSをベースに作られており、それをiPhoneやiPadからでも使える。

専用アプリを開き、ユーザーIDとパスワードを入力するだけで、仮想スマートフォンの画面が起動する。手元の端末には画面のみが転送されるため、データは残らない。

画面タップの入力情報だけでなく、手元のスマートデバイス内のセンサー情報を仮想スマートフォンに送ることも可能だ。GPSの位置情報や傾き、加速度といったデータをクラウド内で処理し、例えば、端末の傾きに応じて画面を回転させたり、仮想スマートフォンから手元の端末のバイブレータを振動させたり、音を鳴らすといったこともできる。

プライベート領域と業務領域を完全に分けられる他にもメリットは多い。社員それぞれの私物端末を遠隔から個別に管理する必要がなくなり、サーバー内の仮想スマートフォンを一括で管理できるようになるのだ。BYODの環境では、新たな業務アプリを開発したり更新する場合、多様な端末に対して動作検証や配布・インストール作業を行わなければならない。だが、NEC Cloud Smartphoneを利用すれば、アプリ開発は、Androidベースの仮想スマートフォンのみに対応させれば良い。

接続された端末の機種情報やディスプレイサイズに合わせて画面サイズを自動調整するため、1種類のアプリを開発し、サーバー内の仮想スマートフォンに展開するだけで作業は完了する。また、仮想スマートフォンに対してMDMを使い、不要な機能/アプリの使用制限をかけることも可能だ。

業務上の利用を、仮想スマートフォンのみに限定すれば、こうした制御を行って、プライベート利用には一切制限が及ばない。第二キャリアサービス事業部・シニアエキスパートの水木宏氏は「デバイス中心ではなく、ユーザー中心で考えていかなければBYODは生きない。そのためのツールとして、NEC Cloud Smartphoneを開発した」と話す。BYOD実現には「プライベートの端末にストレスなく業務環境を入れていくことが必要。それを我々のソリューションでバックアップしながら、BYODを広げていきたい」考えだ。

月刊テレコミュニケーション2013年5月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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