ネットワンシステムズ 代表取締役社長 竹下隆史氏
――2024年12月、SCSKによる株式公開買い付けが完了し、ネットワンシステムズは子会社化されました。2026年4月を期日とする合併を検討中とのことですが、背景を教えてください。
竹下 一番大きいのが日本のDXの遅れです。多くの企業や自治体が「点」、つまり部分最適でシステム構築をしており、DX投資は行っていますが成果がなかなか現れていません。DXとは、業務全体をデジタルで再構築することのはずですが、局所対応に留まっているのが実情です。我々はネットワークインフラを支える立場として下(ネットワーク)から全体を見ていますので、これを強く実感しています。
DXを進めるには、「点」ではなく「面」で全体を考えることが必要です。しかし、それに貢献するため、ネットワークからアプリケーションまでを一気通貫して提供できる企業へ、自社単独では変化するには相当の時間がかかります。そこで、資本提携や業務提携を含めた、非連続的な成長が必要だと考えていました。
一方のSCSKも、クラウド化によって標準化されたAs a Service型のビジネスが主流になっていくなかで、従来の工数積算型、フルカスタマイズのアプリケーション開発中心のビジネスモデルからの脱却を模索していました。両社とも、今のままでは限界があると認識していたわけです。
――両社とも堅調な業績が続いていますが、さらなる成長を目指しての経営統合だったのですね。
竹下 通常こうした経営統合は、一方の経営が苦境にあるときに行われるケースが多いですが、両社とも非常にいい状態で握手しました。
――最初から経営統合を前提に交渉が始まったのですか。
竹下 そうではありません。お互いの経営課題や事業環境の変化についての意見交換が出発点で、両社の得意領域がほとんど重ならず、かつセキュリティやインフラ運用など一部では共通点もあることから、「何か一緒にできるのではないか」という話に発展していきました。
実は、業界再編が進むなか、当社には他にもいろいろなオファーが来ており、経済産業省の「企業買収における行動指針」に沿って厳格かつ公正公平に検討してきました。我々としても短期的にも中長期的にも成長でき、企業価値を高めることができる相手はSCSKだと確信していました。経営統合の過程としての株式公開買い付けという形はとりましたが、一方的に買収されたのではなく、我々自身も「攻めの経営」として能動的に選んだ道です。
統合によって、ネットワークからアプリケーションまで、フルスタックのテクノロジーをカバーできるようになります。また、両社は顧客基盤の重複も少なく、それぞれが異なる業種で優良な顧客を持っています。つまり、規模の経済と範囲の経済の両方を向上できます。そして、全領域をカバーできるようになると、単なるDX案件の発注相手ではなく、事業そのものの効果をともに創出する、戦略的パートナーになることができます。
――今回の経営統合により、「他にはない圧倒的な特徴」を有したフルスタックのテクノロジーを一気通貫で提供できるといった趣旨の発言を2月18日の臨時株主総会でされていました。この「他にはない圧倒的な特徴」の意味をもう少し具体的に教えてください。
竹下 一般的にフルスタックというと、上流から下流まで一通りの技術領域をカバーしている状態を指しますが、フルスタックを掲げる他のSIerとの違いは、顧客の課題解決に最適かどうかという観点で、ソリューションをマルチベンダーで提供できる点です。メーカー系とは異なり、「この製品を納めなければならない」という制約はありません。
さらに、我々の強みは顧客の現場と伴走することです。システムの納品やネットワークの構築で終わるのではなく、保守・運用・最適化まで長期的に支援してきました。SCSKもまた、アプリケーション運用において顧客に深く入り込んでいます。システムのライフサイクル全体にわたって伴走できるSIerは日本にいませんし、それこそが真のフルスタックだと考えています。
コンサルティングの人員を厚くするSIerも多いですが、それは上流がコンサル、下流が運用というイメージに基づいているのではないでしょうか。私は上流のさらに上に運用があると考えています。運用の現場で何が起きているかわからないといいコンサルはできません。運用現場の課題感を認識したうえでコンサルを行い、DXを進めるとその効果は最大化されます。これが、現場伴走型のフルスタックSIerの何よりの強みです。
――フルスタックな体制を実現するには、人材の変化も必要ではありませんか。
竹下 ネットワーク領域ではソフトウェア化が進み、ネットワークエンジニアにもコードプログラミングの知見が求められるようになってきました。一方で、アプリケーションやクラウドなど他領域のエンジニアにも、ネットワークへの理解が必要とされています。こうした変化のなかで、エンジニアの「フルスタック化」はもはや必然といえます。
また、日本では依然として「一度構築したら5年間で償却しリプレースする」といった固定観念が根強く残っていますが、グローバルでは、システムやネットワークの使い方がアジャイル化し、柔軟性が高まっています。
こうした状況の中では、ネットワークとアプリケーションを分けて考えること自体が、すでに意味を失いつつあります。だからこそ我々は、プロジェクト完了で終わるのではなく、運用の現場にまで深く入り込み、顧客とともに考え続けるカスタマーサクセス型の伴走を目指します。
一般的なプロジェクト型アプローチではプロジェクトマネージャーが中心になりますが、我々のアプローチは異なります。運用の知見を持ったカスタマーサクセス担当者が、顧客のDXを推進する頭脳となって運用を統合的に支えることで、顧客企業のIT人材が煩雑な運用業務から解放され、本来取り組むべき戦略的な課題に集中できるようになるでしょう。